27 1月 2026, 火

Netflixに学ぶ企業内検索の進化:LLMによる「自然言語から構造化クエリ」への転換と実務的示唆

Netflixは、膨大なナレッジグラフを検索するためのインターフェースを、従来の構造化クエリからLLMを用いた自然言語対話へと進化させています。単にAIに回答を生成させるのではなく、ユーザーの意図を正確なデータベースクエリ(DSL)に変換するこのアプローチは、ハルシネーション(幻覚)を抑制し、業務システムの信頼性を高める上で極めて重要な示唆を含んでいます。

構造化データと自然言語の「深い溝」をどう埋めるか

企業が保有するデータの中で、ナレッジグラフやリレーショナルデータベースといった「構造化データ」は、業務の根幹を支える最も信頼性の高い資産です。しかし、これらのデータを活用するには、SQLやSPARQL、あるいは独自のクエリ言語(DSL)といった専門的な技術言語を習得する必要があり、これが非エンジニアであるビジネス部門にとって大きな障壁となっていました。

NetflixのTech Blogで紹介された事例は、この課題に対する解法として、LLM(大規模言語モデル)を「知識の源」としてではなく、「翻訳機」として利用するアプローチを採用しています。具体的には、ユーザーが入力する自然言語(例:「トム・クルーズが出演している90年代のアクション映画を探して」)を、システムのバックエンドが理解可能な正確なクエリ(Graph Search Filter DSL)に変換するというものです。

「3つの正しさ」を担保するアーキテクチャ

Netflixの事例で特筆すべきは、生成されるクエリに対して以下の3つのレベルでの「正しさ(Correctness)」を求めている点です。これは、AIを実業務に組み込む日本企業にとっても重要な品質基準となります。

まず、構文的な正しさ(Syntactic Correctness)です。生成されたクエリが文法的に誤っていてはシステムは動作しません。次に、意味的な正しさ(Semantic Correctness)です。例えば、データベース内に存在しないプロパティやジャンルを指定していないか、スキーマ(データ構造)と整合しているかという点です。そして最後に、実用的な正しさ(Pragmatic Correctness)です。これは「ユーザーの本来の意図と合致しているか」という文脈の理解を指します。

LLMは確率的に言葉を繋ぐため、放っておくと存在しないテーブル名や構文をでっち上げることがあります。Netflixは、LLMが生成したクエリを実行する前に、これらの整合性をチェック・修正するレイヤーを設けることで、エンタープライズレベルの信頼性を確保しようとしています。

日本企業における「ベクトル検索」の限界と「構造化」の重要性

現在、日本国内でもRAG(検索拡張生成)の導入が進んでいますが、その多くは社内ドキュメント(PDFやWord)をベクトル化して検索する「非構造化データ」へのアプローチが中心です。これらは「なんとなく関連する文書」を見つけるには有効ですが、「特定の条件に合致する正確なデータセット」を抽出する業務(在庫検索、人事データ抽出、複雑な条件での顧客リスト作成など)には不向きです。

日本の商習慣では、業務遂行において「曖昧さ」よりも「正確性」が強く求められます。顧客への回答や社内稟議において、AIが「もっともらしい嘘」をつくリスクは許容されません。Netflixのような「自然言語を構造化クエリに変換する」アプローチ(Text-to-SQLやText-to-Cypherなど)は、データベースの正確な値をそのままユーザーに提示できるため、AIの回答精度に対する不安を抱える日本企業にとって、非常に相性の良いソリューションと言えます。

日本企業のAI活用への示唆

本事例から、日本の企業・組織がAIプロダクトを開発・導入する際に考慮すべきポイントは以下の通りです。

1. 生成AIを「インターフェース」として活用する
AIに知識を丸暗記させるのではなく、既存の堅牢なデータベースや業務システムを操作するための「自然言語インターフェース」としてLLMを位置づけることで、ハルシネーションのリスクを制御しやすくなります。

2. 「丸投げ」ではなく「検証ループ」を設計に組み込む
LLMの出力をそのまま実行するのではなく、構文チェックやスキーマ検証といったバリデーション(検証)プロセスを間に挟むことが必須です。特に日本の現場では、エラー発生時の説明責任が問われるため、どの段階で誤りが発生したか追跡可能な設計が求められます。

3. 社内データの「構造化」への再投資
AI活用というとモデルの選定ばかりに目が行きがちですが、LLMが正確なクエリを書くためには、対象となるデータベースの定義(メタデータやナレッジグラフ)が整備されている必要があります。日本企業に多く残る「属人化したデータ」や「複雑怪奇なレガシーDB」を整理し、AIが理解可能な形に整備することこそが、DXとAI活用を成功させるための近道となります。

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