Appleが次期アップデートでSiriにGoogleの生成AIモデル「Gemini」を統合するとの観測が強まっています。モバイルOSにおけるAI機能の標準化が進む中、日本企業はこの変化をどう捉え、顧客接点やサービス開発に活かすべきか、技術とガバナンスの両面から解説します。
競合から協調へ:プラットフォーマーのAI戦略転換
BloombergのMark Gurman氏のレポートをはじめとする複数の情報筋によると、AppleはSiriのバックエンド機能強化のためにGoogleの生成AIモデル「Gemini」を統合する準備を進めているとされています。これまでAppleはOpenAI(ChatGPT)との提携を先行させてきましたが、今回の動きは、ユーザーに対し「複数のAIモデル」を選択肢として提供するマルチモデル戦略への移行を意味します。
スマートフォンOSの二大巨頭であるAppleとGoogleが、AI分野で手を組むことは、モバイルエコシステムにおけるAIの在り方が「競争」から「相互運用の標準化」へとフェーズが移りつつあることを示唆しています。特に自社開発のオンデバイスAI(Apple Intelligence)で処理できない複雑なタスクを、クラウド上の強力な他社モデル(Gemini等)にシームレスに委譲する「ハイブリッドAI」のアプローチは、今後のモバイルAIのデファクトスタンダードとなるでしょう。
「アプリを開かない」体験が変える顧客接点
この統合がもたらす最大の変化は、ユーザーインターフェース(UI)の変革です。SiriがGeminiの推論能力を得て、ユーザーの文脈や個人データ(カレンダー、メール、位置情報など)をより深く理解できるようになれば、ユーザーは個別のアプリを立ち上げて操作する必要がなくなります。
例えば、「来週の出張用に、いつもの条件でホテルと新幹線を予約して」と話しかけるだけで、旅行代理店アプリや交通系アプリのAPIをSiriが裏側で操作し、完結させる未来が現実味を帯びてきます。これは、日本企業が提供するサービスのUX(ユーザー体験)設計において、従来の「画面操作」中心から、「AIエージェントへの機能提供(App Intents等の実装)」へと重心を移す必要があることを意味しています。
特に日本は世界的に見てもiPhoneのシェアが高い市場です。Siriの進化は、そのまま国内消費者の検索行動や購買行動の変化に直結します。自社サービスがAIエージェントから「選ばれる(呼び出される)」状態になっているかどうかが、今後の競争優位性を左右することになるでしょう。
プライバシーとデータガバナンスの境界線
一方で、企業利用や機密情報を扱うシーンでは、リスク管理が不可欠です。Siriが外部のAIモデル(Gemini)に処理を投げる際、どのようなデータが送信され、それが学習に利用されるのか、あるいは保持されるのかという点は、企業のコンプライアンス担当者が最も懸念すべき事項です。
Appleはこれまで「プライバシー・ファースト」を掲げ、外部モデルへの送信時にはユーザーへの明示的な許可を求める設計を採用してきました。しかし、業務効率化のために従業員が安易に社内データをSiri経由でGeminiに処理させた場合、意図せぬ情報漏洩のリスクが生じます。
日本企業においては、MDM(モバイルデバイス管理)による制限や、社内規定(AI利用ガイドライン)の整備において、「ブラウザベースのAI」だけでなく、「OS組み込み型のAI」をどう扱うかという新たな論点を整理する必要があります。
日本企業のAI活用への示唆
今回のAppleとGoogleの提携動向を踏まえ、日本のビジネスリーダーや実務者は以下の3点を意識してアクションプランを策定すべきです。
1. アプリ機能の「エージェント対応」を急ぐ
自社のアプリやサービスが、SiriなどのAIアシスタントからスムーズに機能呼び出しできるよう、APIの整備やOS標準機能(App Intentsなど)への対応を進めてください。GUI(画面)だけでなく、CUI(対話)での利用体験を設計することが重要です。
2. マルチLLM時代を前提としたリスク管理
特定のAIモデルに依存するのではなく、OS側がモデルを切り替える可能性があることを前提にサービスを構築する必要があります。また、従業員が業務用端末でOS標準のAI機能を利用する際のデータフローを可視化し、必要であれば制御するポリシーを策定してください。
3. 「検索」から「提案」へのシフトに対応する
ユーザーが自分で検索して情報を探す時代から、AIがユーザーの文脈に合わせて最適な解を提案する時代へ移行します。SEO(検索エンジン最適化)だけでなく、AIに信頼できる情報ソースとして認識されるための「AIO(AI最適化)」や構造化データの整備が、デジタルマーケティングの鍵となります。
