26 1月 2026, 月

韓国海洋振興公社の事例に学ぶ:生成AIは「チャット」から、基幹システム連携型の「エージェント」へ

韓国の海運業界支援機関が、生成AIを単なる対話ツールとしてではなく、基幹システムと連携した「AIエージェント」として導入する動きを見せています。この事例を起点に、グローバルなトレンドとなっているシステム統合型AIの可能性と、日本企業が直面する実装の壁、そして実務的なアプローチについて解説します。

海運・物流業界における生成AI活用の深化

韓国のAIスタートアップXenonが、韓国海洋振興公社(KOBC)の内部業務システム「Araon」に統合される生成AIサービス「Araon Agent」の開発契約を獲得したというニュースは、企業におけるAI活用のフェーズが変わりつつあることを示唆しています。

これまで多くの企業が導入してきたのは、独立したチャットインターフェースを持つ汎用的なLLM(大規模言語モデル)活用でした。しかし、今回の事例のように、特定の業務システム(ERPやCRM、業界特有の管理システムなど)にAIを深く組み込み、内部データを直接参照・操作させる「統合型」へのシフトが、グローバルなトレンドとして加速しています。

「チャットボット」と「AIエージェント」の違い

ここで重要なキーワードとなるのが「AIエージェント」です。従来のチャットボットが主に「質問に対してテキストで回答する」ことに主眼を置いていたのに対し、AIエージェントは「自律的にタスクを遂行する」ことを目指します。

KOBCの事例であれば、単に海運市況を尋ねるだけでなく、社内の基幹システムから特定の契約データや運航スケジュールを引き出し、比較分析を行い、レポートの素案を作成するといった一連のワークフローを、システム連携を通じて実行することが想定されます。これは技術的には、RAG(検索拡張生成)の高度化に加え、Function Calling(APIを通じた外部機能の呼び出し)を組み合わせることで実現されます。

日本企業における実装の課題:レガシーシステムとデータ整備

日本国内に目を向けると、海運、商社、製造業などにおいて同様のニーズは極めて高いと言えます。しかし、これを実現するためには、日本企業特有の「2つの壁」を乗り越える必要があります。

一つ目は「レガシーシステムの壁」です。日本の多くの大企業では、オンプレミスで構築され、長年改修を重ねた複雑な基幹システムが稼働しています。最新のLLMがスムーズに連携できるAPIが整備されていないケースも多く、AIエージェント導入の前段階として、システムインターフェースの刷新(モダナイズ)が必要になることが少なくありません。

二つ目は「非構造化データの壁」です。AIが社内ナレッジを有効活用するには、ドキュメントやデータが機械可読な状態で整理されている必要があります。しかし、紙ベースの業務フローや、画像化されたPDF、属人化されたExcel管理が残っている現場では、AI導入の前にまず「データのデジタル化と整備」という地道な作業が求められます。

リスク管理とガバナンスの視点

社内システムとAIを直結させることは、利便性が向上する反面、リスクも増大します。特にハルシネーション(もっともらしい嘘)による誤ったデータ処理や、権限設定のミスによる情報漏洩(本来アクセス権のない社員がAI経由で秘匿情報を見れてしまう問題)は、深刻な経営リスクとなり得ます。

日本では個人情報保護法や著作権法への対応に加え、各業界の業法やコンプライアンス規定が厳格です。AIエージェントの実装にあたっては、「AIが勝手に判断・実行する範囲」と「人間が承認すべき範囲」を明確に区分する「Human-in-the-Loop(人間が介在する仕組み)」の設計が不可欠です。

日本企業のAI活用への示唆

今回の事例および現在の技術トレンドを踏まえ、日本の実務者は以下の点を意識してAI活用を進めるべきです。

  • 「横付け」から「組み込み」へ:
    チャットツールを導入して終わりではなく、既存の業務システムやワークフローの中にAIをどう「部品」として組み込むか(Embedded AI)を設計する段階に来ています。
  • データ基盤への投資を優先する:
    AIの精度は参照するデータの質に依存します。AI導入プロジェクトと並行して、社内文書のデジタル化、データのサイロ化解消、API整備への投資を行うことが、中長期的な競争力につながります。
  • 「完全自動化」を急がない:
    特にミッションクリティカルな業務においては、AIを「自律的なエージェント」として振る舞わせつつも、最終決定権は人間が持つプロセスを維持することが、日本の品質基準や説明責任(アカウンタビリティ)を満たす現実的な解となります。

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