米国証券取引委員会(SEC)が「Gemini」に対する訴訟を取り下げたという報道がありましたが、これはGoogleの生成AIではなく、暗号資産取引所に関するニュースです。本稿では、この事実関係を整理しつつ、テック業界を取り巻く米国の規制動向と、日本企業がAI事業を進める上で意識すべき「名称の混同リスク」や「ガバナンス」の視点について解説します。
ニュースの事実:暗号資産貸付プログラムを巡る訴訟の終結
2025年2月、米国証券取引委員会(SEC)は、Winklevoss兄弟が設立した暗号資産(仮想通貨)取引所「Gemini Trust Company」に対する訴訟の取り下げに合意しました。この訴訟は、同社が提供していた「Gemini Earn」という貸付プログラムが、未登録の証券販売にあたるとして2023年に提訴されていたものです。Gemini側のパートナー企業であったGenesis Global Capitalの破綻に関連する複雑な経緯がありますが、今回の取り下げにより、Gemini側にとっては一つの法的な節目を迎えたことになります。
生成AI「Gemini」との混同とブランドリスク
AI実務者にとって重要かつ注意すべき点は、このニュースにおける「Gemini」が、Google(Alphabet)の提供する大規模言語モデル(LLM)や生成AIサービス「Gemini」とは全く無関係であるということです。
テック業界では、神話に由来する名称や一般的な名称が重複して使われることが珍しくありません。しかし、現在のAIブームの中で「Gemini」という単語を目にした際、即座にGoogleのAIモデルにおける法的トラブルかと誤認することは、意思決定におけるノイズとなり得ます。特に日本国内で海外ニュースを速報的に収集する際、こうした名称の重複(Namespace Collision)は、誤ったリスク判断や社内報告につながる可能性があるため、一次情報の主語を正確に確認するリテラシーが求められます。
テック規制の潮流:クリプトからAIへ
今回のニュースは暗号資産領域のものでしたが、SECをはじめとする米国の規制当局が、新興技術に対して厳格な姿勢を取っているという事実は、AI分野にも共通する課題です。SECはこれまで暗号資産に対して「証券法」の枠組みで積極的な法執行を行ってきました。
現在、規制の焦点は徐々にAIへと広がりつつあります。特に、AIエージェントが自律的に金融取引を行ったり、モデル自体が資産価値を持ったりする場合、既存の金融規制や著作権法、消費者保護法がどのように適用されるかは依然として不透明です。今回のGemini(暗号資産)の事例は、「新興技術を用いた利回りサービスや投資商品」が、いかに既存の法規制と衝突しやすいかを示すケーススタディとして、AIを活用したFinTechサービスを検討する際にも参考になります。
日本企業のAI活用への示唆
今回の報道を基に、日本企業がAI活用やリスク管理において留意すべき点を整理します。
1. 情報収集における「主語」の確認とリテラシー
AI分野は変化が激しく、日々多くのニュースが飛び交います。特に「Gemini」や「Claude」、「O1」といった名称が含まれる海外ニュースに接した際、それが自社で利用しているAIモデルに関するものなのか、全く別の企業やプロジェクトなのかを正確に識別する必要があります。誤報に基づく過剰反応(例:利用停止判断など)を防ぐため、情報システム部門や法務部門は、情報の正確な一次ソースを確認するフローを確立すべきです。
2. 新規事業における規制リスクの先読み
暗号資産貸付プログラムが証券法に問われたように、AIを活用した新しいビジネスモデル(特に金融、資産運用、権利ビジネスに関わるもの)も、既存の法解釈においては「未登録の金融商品」や「違法なデータ利用」と見なされるリスクがあります。米国の規制当局の論理は、数年遅れて日本の規制議論にも影響を与えることが多いため、米国の司法判断をモニタリングすることは、中長期的な事業リスクの低減につながります。
3. 外部AIサービスの選定とベンダーリスク管理
GoogleのGeminiであれ、OpenAIのChatGPTであれ、外部のAIモデルをプロダクトに組み込む際は、その提供元企業の法的安定性(訴訟リスクや規制対応状況)を評価することが重要です。今回のニュースは別件でしたが、仮に基盤モデルの提供元が規制当局と深刻な係争状態になった場合、APIの提供停止や仕様変更といったサプライチェーンリスクに直結します。日本企業としては、特定のベンダーに依存しすぎないマルチモデル構成や、SLA(サービス品質保証)の確認など、堅実なベンダーマネジメントが求められます。
