生成AIは文章作成や要約といった「言語処理」の枠を超え、具体的なタスクを遂行する「エージェント」へと進化しつつあります。米ZDNETが報じたGoogle Geminiによるフライト検索の事例をもとに、AIがリアルタイムデータと連携することのビジネスインパクトと、日本企業がサービス開発や業務活用において留意すべき点について解説します。
AIによる「旅行代理店」のような振る舞い
生成AIの活用において、初期のフェーズでは「詩を書く」「コードを生成する」といったクリエイティブな能力が注目されました。しかし、現在ビジネスの現場で最も関心を集めているのは、AIが外部ツールやデータと連携し、具体的なタスクを完遂する「エージェント機能」です。
ZDNETの記事で紹介された事例は、この進化を象徴するものです。筆者はGoogleのAI「Gemini」に対し、複雑な条件(安全性、最安値、家族旅行など)を含む20種類のプロンプトを試し、フライト情報を検索させました。結果、Geminiは単なる一般的なアドバイスではなく、具体的な便名や価格を含む「驚くほど具体的」な提案を行いました。
これは、大規模言語モデル(LLM)が学習済みの過去の知識だけでなく、Googleフライトなどのリアルタイム情報にアクセスできるようになったことを意味します。ユーザーにとって、これは従来の「検索ボックスにキーワードを入れて、多数のタブを開いて比較する」という体験から、「要件を伝えるだけで最適なプランが提示される」という体験への劇的なシフトを示唆しています。
「検索のAI化」が日本のB2Cサービスに与える影響
この事例は、旅行業界に限らず、検索機能を備えたあらゆる日本のB2Cサービス(EC、不動産、求人など)にとって重要な意味を持ちます。従来のキーワード検索型のUI(ユーザーインターフェース)は、AIによる対話型インターフェースに取って代わられる可能性があります。
例えば、日本の旅行予約サイトやECサイトにおいて、ユーザーが「来月の3連休で、温泉があって、かつカニ料理が美味しく、予算5万円以内の宿」といった曖昧かつ複合的な条件を自然言語で入力し、即座にプランが提示される機能が標準化していくでしょう。これを実現するには、自社のデータベースをLLMが理解しやすい形式(APIや構造化データ)で整備し、AIが適切に検索・抽出できるアーキテクチャ(RAG:検索拡張生成など)を構築する必要があります。
一方で、グローバルプラットフォーマー(GoogleやMicrosoftなど)がOSやブラウザレベルでこうした機能を統合してくると、個別のサービスサイトにユーザーが訪れなくなる「中抜き」のリスクも生じます。日本企業としては、汎用的なAIではカバーしきれない、きめ細やかな日本独自の商習慣や「おもてなし」に相当する付加価値をどうデータ化し、AIを通じて提供できるかが勝負所となります。
ハルシネーションと実務上のリスク管理
もちろん、リスクも存在します。生成AIには「ハルシネーション(もっともらしい嘘)」の問題がつきまといます。フライト検索のような実務においては、「存在しない便を提案された」「価格が実際と異なる」といったミスは致命的です。
特に日本では、企業に対する品質要求レベルが極めて高く、AIのミスがそのままブランド毀損やクレームにつながりやすい傾向があります。実務適用の際は、AIの出力をそのままユーザーに見せるのではなく、一度正規のデータベースと照合して検証するプロセスを挟むか、あるいは「あくまで参考情報であり、最終確認は公式サイトで」といった免責事項を明確にするUXデザインが不可欠です。
日本企業のAI活用への示唆
今回の事例を踏まえ、日本の意思決定者やプロダクト担当者が意識すべきポイントは以下の3点です。
1. 自社データの「AI可読性」を高める
AIが正確にタスクをこなすためには、社内の在庫情報、予約状況、製品仕様などのデータが、API経由で機械的に取得・解釈可能な状態になっている必要があります。レガシーシステムのモダナイズは、AI活用の前提条件となります。
2. 「コンシェルジュ型」UXへの転換
ユーザーは「自分で探す」ことから「AIに提案させる」ことへと行動様式を変えつつあります。自社のサービスが、単なるリスト表示ではなく、ユーザーの文脈を理解した提案(コンサルテーション)を行えるよう、UI/UXの再設計を検討すべきです。
3. AIガバナンスと責任分界点の明確化
AIが提案した内容に基づいてユーザーが行動し、損害が出た場合の責任の所在(プラットフォーマーか、サービス提供者か、ユーザーか)は、法的にも議論が続いている領域です。特に金融や旅行など契約を伴う分野では、利用規約の整備と、AIの限界をユーザーに正しく伝える誠実なコミュニケーションが求められます。
