The New York Timesが、生成AIによるコンテンツ利用を「窃盗」と断じるキャンペーンへの支持を表明しました。欧米で強まるクリエイター保護の動きは、AI開発・活用に積極的な日本企業にとっても対岸の火事ではありません。日本の法制度とグローバルな倫理基準のギャップをどう埋め、持続可能なAI活用を進めるべきか、実務的観点から解説します。
欧米で加速する「反・無断学習」の潮流
The New York Times(NYT)が、AI企業による知的財産の無断使用に抗議するキャンペーン「Stealing Isn’t Innovation(窃盗はイノベーションではない)」への支持を打ち出しました。これは、生成AIの学習データとしてニュース記事や創作物が無断で利用されている現状に対し、メディアやクリエイターが団結して異議を唱える動きの一つです。
生成AIの黎明期には「技術革新のため」という大義名分のもと、Web上のあらゆるデータがスクレイピング(収集)されてきました。しかし、AIモデルが高性能化し、実用段階に入るにつれ、データ提供元である権利者側からの反発は法的訴訟へと発展しています。NYT自身もOpenAIとMicrosoftを相手取り訴訟を起こしていますが、今回のキャンペーン支持は、単なる法廷闘争を超え、「倫理的なビジネス慣習」を問う社会運動へと拡大していることを示唆しています。
「世界で最もAIに優しい国」日本のジレンマ
ここで日本の実務担当者が認識しておくべきは、日本の著作権法と世界の潮流との「ギャップ」です。日本の著作権法第30条の4は、AI学習のためのデータ利用を原則として認めており、世界的にも「AI開発に最も親和性が高い(緩やかな)法制度」として知られています。
しかし、法律で認められているからといって、無制限にデータを学習させることがビジネス上の正解とは限りません。以下のようなリスクが顕在化しつつあるからです。
- グローバル展開時の法的リスク: 日本国内で開発したモデルやサービスであっても、EUや米国など規制が厳しい市場へ展開する場合、現地の法規制(EU AI法など)や訴訟リスクに晒されます。
- レピュテーションリスク: 「法律上問題ない」としてクリエイターの権利を軽視する姿勢を見せれば、ブランドイメージを毀損し、炎上を招く恐れがあります。特に日本国内でも、イラストレーターや作家を中心に懸念の声が高まっています。
- 文化庁の見解と「享受」の解釈: 文化庁のAIと著作権に関する考え方では、学習段階であっても、特定のクリエイターの画風を意図的に模倣出力させるような場合は権利侵害になる可能性が示されています。
日本企業における実務的対応策
では、日本企業は具体的にどのようなスタンスでAI活用を進めるべきでしょうか。企業のAI活用フェーズ(利用・開発・提供)に応じて、以下のような対策が求められます。
1. 生成AI利用企業(ユーザー側)の場合
業務効率化などでChatGPTやCopilotなどを利用する場合、入力データが学習に回らない設定(オプトアウト)を確認することが第一歩です。また、生成されたコンテンツを対外的に公開・商用利用する際は、その生成物が既存の著作物に酷似していないかチェックするプロセスを、ガバナンス体制に組み込む必要があります。
2. プロダクト開発・組み込みの場合
自社サービスにLLM(大規模言語モデル)を組み込む、あるいはRAG(検索拡張生成)を用いて社内データを参照させる場合、参照元のデータの権利関係をクリアにすることが重要です。「クリーンなデータ」のみで学習されたモデル(Adobe Firefly等のアプローチ)を選定することも、リスク低減の有効な手段となります。
3. 新規モデル開発の場合
独自のLLMを開発する企業は、学習データの透明性確保が競争力に直結します。著作権法第30条の4に依存するだけでなく、大手出版社やコンテンツホルダーとのライセンス契約締結を模索するなど、エコシステム全体への利益還元を視野に入れた戦略が、長期的には信頼獲得につながります。
日本企業のAI活用への示唆
今回のNYTの動向は、AI開発における「データのただ乗り」が許される時代が終わりつつあることを示しています。日本企業への示唆は以下の通りです。
- 「合法=安全」ではない: 日本の著作権法が柔軟であっても、グローバルスタンダードや倫理的配慮(Responsible AI)を無視すれば、ビジネスの持続可能性が危ぶまれます。
- データガバナンスの強化: どのAIモデルを使い、どのデータを入力・参照させているか。そのトレーサビリティ(追跡可能性)を確保することが、将来的な法的リスクへの防波堤となります。
- クリエイターとの共存モデル: AIによる効率化を追求する一方で、人間による創作活動を尊重し、対価や権利保護について能動的に考える姿勢が、企業価値を高める要因となります。
