23 1月 2026, 金

組織トップのChatGPT利用が示唆する「シャドーAI」のリスクとガバナンス:米警察事例を他山の石とする

米国バージニア州リッチモンド警察の署長が、移民税関捜査局(ICE)や州法に関する情報をChatGPTで検索していたことが公文書により明らかになりました。この事例は、組織のリーダー層であっても「検索エンジン」と「生成AI」の役割を混同しうる現状を示しています。日本企業が直面するシャドーAIのリスクと、実務における適切なガバナンスの在り方について解説します。

米国警察署長の履歴に見る「検索」と「生成」の混同

米国バージニア州リッチモンド警察のリック・エドワーズ署長が、業務においてChatGPTを使用し、連邦移民税関捜査局(ICE)の情報や、州の法規制、さらには除雪に関する対応策などを問い合わせていたことが報じられました。一見すると、業務効率化のための先進的な取り組みのように映るかもしれませんが、AIガバナンスの観点からは非常に危うい兆候を含んでいます。

最大の問題は、大規模言語モデル(LLM)を「事実を確認するためのデータベース」として使用している点です。LLMは確率的に「もっともらしい文章」を生成するツールであり、最新の正確な事実や法的解釈を保証するものではありません。警察署長という責任ある立場の人間が、法執行に関わる機微な情報の確認に汎用的なチャットボットを使用していた事実は、AIリテラシーの欠如が現場担当者だけでなく経営・管理層にも存在することを示唆しています。

日本企業でも起きうる「悪気のない」シャドーAI

この事例は決して対岸の火事ではありません。日本国内においても、業務効率化を急ぐあまり、社員が個人のアカウントでChatGPT等の生成AIを利用し、会議の議事録作成のために社外秘の音声を流し込んだり、顧客対応のドラフト作成のために個人情報を入力したりするケースが散見されます。

いわゆる「シャドーAI」と呼ばれるこの現象の厄介な点は、利用者に悪意がなく、むしろ「業務を良くしたい」という善意に基づいていることが多い点です。今回の警察署長のケースも、迅速な意思決定を行いたいという意図があったと推測されます。しかし、公的なLLMサービスに入力されたデータが学習に再利用される設定になっていれば、機密情報の漏洩リスクに直結します。日本の個人情報保護法や、各業界のガイドラインに抵触する恐れもあり、企業としては技術的なブロックだけでなく、運用ルールと教育の両面からのアプローチが不可欠です。

法的根拠や正確性が求められる業務への適用限界

警察業務や、日本企業の法務・コンプライアンス業務において、生成AIを「知識源」としてそのまま利用することには高いリスクが伴います。AIがもっともらしい嘘をつく「ハルシネーション(幻覚)」のリスクがあるためです。

例えば、「○○法に基づく対応を教えて」と聞いた際、AIは存在しない判例や条文を捏造して回答することがあります。リッチモンド警察の事例のように、法執行機関が誤ったAIの回答に基づいて行動すれば、人権侵害や訴訟問題に発展しかねません。日本企業においても、契約書の解釈や労務対応など、高い正確性が求められるタスクにおいては、RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)のような、信頼できる社内ドキュメントのみを参照して回答させる仕組みの構築が必須となります。

日本企業のAI活用への示唆

今回の事例を踏まえ、日本企業・組織の意思決定者は以下の3点を意識してAI活用を進めるべきです。

1. 「検索」と「生成」の使い分けを教育する
経営層を含め、全社員に対して「生成AIは検索エンジンではない」という基本原則を徹底する必要があります。事実確認(Fact Check)が必要な業務と、アイデア出しや要約といった創造的・構成的業務を明確に区分けし、前者にAIを使う際のリスク検証プロセスを定着させることが重要です。

2. セキュアな環境の提供でシャドーAIを防ぐ
利用を禁止するだけでは、隠れて使うシャドーAIを助長します。Microsoft Azure OpenAI ServiceやAWS Bedrockなどを活用し、入力データが学習に使われないセキュアな社内版GPT環境を整備することで、社員が安心して業務利用できる土壌を作るべきです。

3. ドメイン特化型の活用検討(RAG等)
一般的なChatGPTに専門知識を問うのではなく、自社のマニュアルや過去のトラブルシューティング集をデータベース化し、それを参照させるRAGシステムの導入を検討してください。特に日本の商習慣や独自の社内規定に即した回答を得るためには、汎用モデルへの依存からの脱却が必要です。

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