長らく「AI開発といえばNVIDIA」という一強状態が続いてきましたが、AMDがその牙城を崩そうとしています。かつては「フラストレーションの塊」とさえ評されたAMDのAI開発環境は、実務でどこまで使えるレベルに達したのか。最新のレビュー記事を起点に、コスト削減とサプライチェーンのリスク分散という観点から、日本企業が知るべき「第二の選択肢」について解説します。
「NVIDIA一択」からの脱却と技術的ハードル
生成AIや大規模言語モデル(LLM)の開発・運用において、NVIDIA製GPUと計算プラットフォーム「CUDA」は事実上の業界標準(デファクトスタンダード)となっています。この盤石なエコシステムに対し、競合であるAMDも対抗策を打ち出し続けていますが、その道のりは平坦ではありませんでした。
元記事であるTechPowerUpのレビューでも触れられている通り、これまでAMD製ハードウェアでAIワークロードを実行しようとすると、多くのエンジニアは「実験的なビルド」や「複雑なコンパイル作業」に悩まされ、フラストレーションの溜まる経験を強いられてきました。ライブラリの非互換性やドキュメントの不足は、スピードが命であるAI開発現場において致命的なボトルネックとなり得たのです。
しかし、状況は変わりつつあります。AMDのソフトウェアスタックである「ROCm(Radeon Open Compute)」の成熟や、PyTorchなどの主要フレームワークによるサポート強化により、特定の用途においてはNVIDIA環境と遜色ないパフォーマンスを、より安価に発揮できるケースが増えてきました。
日本企業にとってのメリット:コスト最適化と「推論」への特化
日本企業、特に予算制約のあるプロジェクトや中小規模のAI導入において、AMD製品は魅力的な選択肢となり得ます。昨今の円安傾向やNVIDIA製GPUの世界的な争奪戦による価格高騰は、日本国内のAI実証実験(PoC)やサービス展開の足かせとなっています。
もし、自社のユースケースが「ゼロからの大規模な事前学習」ではなく、既存モデルの「推論(Inference)」や「軽量なファインチューニング」であるならば、AMDのGPUや、AI処理に特化したNPU(Neural Processing Unit)を搭載したワークステーションは、コストパフォーマンスに優れた代替案となります。特に、製造業における外観検査(エッジAI)や、社内データのセキュリティを確保するためにオンプレミス(自社運用)でLLMを動かすといったシナリオでは、必ずしも最高スペックのH100等は必要ありません。
リスクと課題:エンジニアの確保とエコシステムの差
一方で、安易な導入にはリスクも伴います。依然としてAI関連のライブラリやツール、オープンソースのコードは「NVIDIA(CUDA)環境で動くこと」を前提に作られているものが大半です。「AMD環境で動かす」というただそれだけのために、エラーの解消や環境構築に膨大な工数を取られるリスクがあります。
日本の労働市場においては、AIエンジニア自体が不足していますが、その中でも「CUDA以外の環境トラブルに対処できるエンジニア」は極めて稀有です。ハードウェアコストを下げられたとしても、エンジニアの人件費や開発遅延による機会損失がそれを上回ってしまっては本末転倒です。
日本企業のAI活用への示唆
グローバルのハードウェア動向と国内の事情を踏まえると、日本企業は以下の3つの視点で意思決定を行うべきです。
1. 目的による「使い分け」戦略の徹底
「学習はクラウド上のNVIDIA環境で、推論や小規模開発はローカルのAMD環境で」といったハイブリッドな構成を検討すべきです。すべての工程を最高級のハードウェアで行う必要はありません。特にコンプライアンスの観点から外部に出せないデータを扱うオンプレミス環境構築において、コスト効率の良いAMD製品は強力な武器になります。
2. エンジニアリング体制の見極め
AMD環境を採用する場合、社内のエンジニアチームにトラブルシューティングのスキルがあるか、あるいはサポートを提供できるパートナー企業が存在するかを確認する必要があります。単に「安いから」という理由だけで導入するのは避けるべきです。
3. サプライチェーンの多様化(BCP対策)
地政学リスクや半導体不足により、特定のベンダー製品が入手困難になるリスクは常にあります。NVIDIA以外の選択肢(AMDやIntel、あるいは国産チップなど)の動向を常にウォッチし、いざという時に切り替えられる技術的な柔軟性を持っておくことは、中長期的なAI戦略において重要なリスクヘッジとなります。
