オランダのサーバーからGoogleのGemini APIを利用していた開発者が、突如として「地域制限」によるアクセス拒否に遭遇した事例が報告されています。本記事では、この事象を単なる技術的なエラーとしてではなく、生成AI活用における「リージョン選定」と「規制対応」のリスク管理という観点から解説します。
「昨日まで動いていた」が通用しない生成AIのリージョン事情
GoogleのAI開発者フォーラムにて、注目すべき報告がなされました。アムステルダム(オランダ)にあるDigitalOceanのKubernetesクラスター上で、過去6ヶ月間にわたり問題なく稼働していたマイクロサービスが、突如としてGemini APIへのアクセス時に「User location is not supported for the API use(ユーザーのロケーションはこのAPI利用に対応していません)」というエラーを返し始めたというものです。
この事象は、生成AIのAPIを利用したシステム開発において、従来のWebアプリケーションとは異なる「地理的な制約」が潜んでいることを示唆しています。通常、クラウドサービスのリージョン選定は、レイテンシ(通信遅延)やサーバーコスト、あるいはデータセンターの信頼性を基準に行われます。しかし、LLM(大規模言語モデル)のAPIに関しては、提供事業者のポリシーや各国の法規制(特にEUのGDPRやAI法案など)に基づき、利用可能な地域が厳格に管理されており、その適用範囲は予告なく変更される可能性があります。
なぜ特定の地域で突然APIが使えなくなるのか
GoogleやOpenAIなどの主要なAIベンダーは、生成AIサービスの展開において、国や地域ごとに段階的なリリース戦略をとることが一般的です。特にEU圏内では、プライバシー保護やAI規制へのコンプライアンス対応が完了するまで、最新モデルの提供が見送られたり、利用が制限されたりするケースが散見されます。
今回の事例では、技術的にはIPアドレスベースでアクセス元の地理的位置が判定され、API側でブロックされたと考えられます。重要なのは、「過去6ヶ月間動いていた」という実績が、将来の利用を保証しないという点です。ベンダー側がコンプライアンス基準を厳格化したり、ジオブロッキング(地域によるアクセス制限)の設定を更新したりした瞬間に、サービスが停止するリスクがあります。
日本企業が注意すべき「インフラとAPIの不一致」
この問題は、日本国内でAI活用を進める企業にとっても対岸の火事ではありません。日本企業であっても、コスト削減や冗長構成、あるいはグローバル展開のために、海外のクラウドリージョン(AWSの北米リージョンや欧州リージョンなど)を利用するケースは珍しくないからです。
例えば、日本のユーザー向けサービスであっても、バックエンドのサーバーが「API未対応地域」に設置されていれば、そこからのAPIリクエストは拒否される可能性があります。逆に、日本国内のリージョンであれば多くの生成AIサービスがいち早く提供されていますが、すべてのクラウドベンダーの全リージョンで最新モデルが即座に使えるわけではない点にも注意が必要です。
日本企業のAI活用への示唆
今回の事例を踏まえ、AIを組み込んだプロダクト開発や社内システム構築において、以下の3点を考慮すべきです。
1. インフラ選定における「モデル可用性」の確認
サーバーのコストやスペックだけでなく、「そのリージョンから対象のAI APIへ安定してアクセスできるか」「ベンダーのサポート対象地域に含まれているか」を設計段階で検証する必要があります。特にEU圏内のサーバーを経由する場合は、規制動向によるサービス断のリスクを見積もる必要があります。
2. フォールバック(代替)手段の確保
特定のリージョンや特定のモデルAPIが利用不可になった場合に備え、リクエストを別のリージョンのサーバーにルーティングする、あるいはAzure OpenAI ServiceやAWS Bedrockなど他のプロバイダーへ切り替えるといった、冗長性を持ったアーキテクチャ(MLOpsの一部としての信頼性設計)が求められます。
3. 規約と規制の継続的なモニタリング
生成AI分野は法規制の変化が激しく、プラットフォーマーの対応も流動的です。エンジニアだけでなく、法務やリスク管理部門と連携し、利用しているAIサービスの提供地域ポリシーに変更がないか、定期的に確認する体制づくりが重要です。
