米国ではChatGPTに確定申告の準備プランを作成させるなど、複雑な業務のプロセス整理に生成AIを活用する事例が増えています。本記事では、日本企業が経理・財務などのバックオフィス業務でAIを活用する際のメリットと、法規制や情報セキュリティ上のリスク対応について解説します。
米国における税務申告プロセスでのChatGPT活用例
米国において、確定申告(タックスシーズン)に向けた準備にChatGPTを活用する事例が注目を集めています。具体的には、申告までに必要な書類の整理、申告方法の確認、個人情報保護の対策、そして最終チェックに至る「30日間の準備プラン(チェックリスト)」をAIに作成させるというアプローチです。
この事例が示唆しているのは、生成AI(文章などを自動生成するAI)が単なる文章作成ツールにとどまらず、複雑な業務の全体像を俯瞰し、必要なタスクを時系列に沿ってブレイクダウンするプロジェクト管理のサポート役として機能するということです。特に、年に一度しか行わない業務や、手順が煩雑な手続きにおいて、AIとの対話を通じて思考を整理する使い方は、非常に実用的といえます。
日本のバックオフィス業務における応用可能性
このアプローチは、日本企業の経理・財務や法務などのバックオフィス業務にも応用可能です。例えば、期末決算に向けたスケジュール策定、インボイス制度や電子帳簿保存法といった新しいルールに対応するための社内チェックリストの作成、あるいは新入社員向けの年末調整手続きのガイドライン作成など、定型・半定型のプロセスを整理する際に、大規模言語モデル(LLM)は強力な壁打ち相手となります。
業務効率化の観点では、担当者がゼロから計画を立案するのではなく、AIが出力した「たたき台」をベースに自社の実態に合わせて修正を加えることで、初動の時間を大幅に削減できます。また、抜け漏れがないかを客観的に確認するためのチェックツールとしての活用も有効です。
税務・法務領域でのAI活用に潜むリスクと限界
一方で、税務や法務といった厳密性が求められる領域において生成AIを活用する際には、特有のリスクと限界を理解しておく必要があります。最大のリスクは、AIが事実とは異なるもっともらしいウソを出力する「ハルシネーション(幻覚)」です。税制は頻繁に改正されるため、AIが学習している事前データが最新の法令を反映していない可能性が常にあります。
また、日本国内の特有の法規制にも注意が必要です。例えば、個別の事案に対する具体的な税額計算や税務判断をAIに行わせ、それをそのまま業務上の決定や顧客へのアドバイスとして利用することは、税理士法における非税理士の税務業務の禁止に抵触する恐れがあります。AIを用いた社内システムや顧客向けプロダクトを開発する際は、「一般的な制度の解説やタスクの整理」にとどめ、「個別具体的な判断」は専門家が行うという線引きをシステムと業務フローの両面に組み込むことが不可欠です。
セキュリティとガバナンスの確保
財務データや従業員の個人情報など、機密性の高い情報を扱う業務にAIを組み込む場合は、情報管理のガバナンス体制が問われます。パブリックなAIサービスに機密情報を入力すると、学習データとして二次利用され、情報漏洩につながるリスクがあります。
企業が安全に活用を進めるためには、入力データが学習に利用されない(オプトアウトされた)エンタープライズ向けのAI環境を整備することが前提となります。さらに、社内の規程や最新のマニュアルなどの自社データをAIに参照させ、より正確な回答を生成させるRAG(検索拡張生成)技術を導入することで、ハルシネーションを抑制しつつ自社に特化した業務サポートを実現することが推奨されます。
日本企業のAI活用への示唆
バックオフィス業務の複雑化や法改正対応が課題となる日本企業にとって、AIをタスク管理やプロセス整理のパートナーとして活用することは、生産性向上の有効な手段です。実務に導入する際は、以下の点に留意して推進することが重要です。
第一に、AIの役割を「個別具体的な判断」ではなく、「全体像の整理、たたき台の作成、チェック機能」に限定することです。税理士法などの法規制を遵守し、最終的な責任と意思決定は常に人間が行うという基本原則(ヒューマン・イン・ザ・ループ)を徹底してください。
第二に、機密情報を安全に扱えるITインフラと社内ルールの整備です。入力してはいけないデータの基準を明確にし、従業員への継続的な教育を行うことで、シャドーAI(会社が把握していないAIの無断利用)によるセキュリティリスクを防ぐことができます。
第三に、汎用的なAIの回答を鵜呑みにせず、RAGなどを活用して自社の業務フローや最新の法令に基づいたローカライズを行うことです。これらをバランスよく実装することで、コンプライアンス上のリスクを統制しながら、AIの恩恵を最大限に引き出すことが可能になります。
