英国および米国で展開されたSkyscannerのChatGPTアプリ(プラグイン)連携は、旅行検索が「条件入力」から「自然言語による対話」へとシフトする象徴的な事例です。単なるチャットボットではなく、リアルタイムデータと連携するAIエージェントとしての活用事例をもとに、日本企業が自社サービスに生成AIを組み込む際のポイントと、考慮すべきUXおよびリスクについて解説します。
「検索」から「相談」へ:旅行体験の入り口が変わる
Skyscannerが英国および米国でChatGPT上でのフライト検索アプリ(機能)を提供開始したというニュースは、単なる機能追加以上の意味を持っています。これまでユーザーは、目的地、日付、予算といった条件をフィルタリング機能に入力する必要がありました。しかし、今回の連携により、「来月の週末で、ロンドンからパリに行きたい。予算は抑えめで、午前中に出発したい」といった自然な会話から、リアルタイムの価格情報を引き出し、比較検討が可能になります。
これは、大規模言語モデル(LLM)が単にテキストを生成するだけでなく、外部のAPIを叩いて具体的なタスクを実行する「Actionable AI(行動するAI)」へと進化している好例です。
独自データとLLMをつなぐ「グラウンディング」の重要性
企業がLLMをビジネス活用する際、最大の課題となるのが「ハルシネーション(もっともらしい嘘)」です。ChatGPT単体では、最新のフライト価格や空席情報は分かりません。Skyscannerの事例は、LLMの言語能力と、自社が持つ正確なリアルタイムデータベースをAPI経由で接続すること(グラウンディングやFunction Callingと呼ばれる技術)で、この課題を解決しています。
日本のECサイトや予約サービスにおいても、カタログデータや在庫情報と生成AIを適切に接続するアーキテクチャの設計が、信頼性の高いサービス構築の鍵となります。
対話型UI(チャット)のメリットと限界
一方で、すべての検索体験がチャットに置き換わるわけではありません。例えば、「東京発、価格の安い順」のような単純な並べ替えや一覧性は、従来のGUI(ボタンやリスト表示)の方が優れています。チャットUIの強みは、「漠然としたニーズの具体化」や「複合的な条件の提案」にあります。
日本企業がプロダクトにAIを組み込む際は、流行に乗って安易にチャットボットを設置するのではなく、「どの工程が対話に適しているか」というUX(ユーザー体験)の吟味が必要です。ハイブリッドなUI設計が、実用的な落とし所となるでしょう。
日本企業のAI活用への示唆
今回の事例を踏まえ、日本の経営層やプロダクト担当者は以下の点に着目すべきです。
1. API整備がAI活用の前提条件
AIが自社データを活用するためには、システムが外部から安全にアクセスできるAPIとして整備されている必要があります。レガシーシステムのモダナイズ(現代化)は、AI導入の前段階として避けて通れません。
2. 「おもてなし」のデジタル化と責任分界
日本企業が得意とするきめ細やかな接客をAIで再現する場合、法的なリスク管理が重要です。AIが誤った価格や条件を提示した場合の免責事項や、最終確認画面での人間によるチェックプロセスなど、景品表示法や消費者契約法を意識したガバナンス設計が求められます。
3. 新たな顧客接点の創出
自社アプリにAIを組み込むだけでなく、ChatGPTのようなプラットフォーム上に自社サービスへの入り口(プラグインやGPTs)を作ることも検討に値します。特にインバウンド需要を取り込む観光・サービス業では、多言語対応のコストをAIで劇的に下げつつ、海外のプラットフォーム経由で顧客にリーチする有効な手段となり得ます。
