ChatGPTなどの対話型AIからの流入は、従来の検索エンジン経由と比較して高いコンバージョン率(CVR)を記録しているというデータが明らかになりました。Eコマースにおける「量から質へ」の転換点となる可能性を秘めたこの現象について、その背景と実務上の意味合いを解説します。
AIリファラル:トラフィックの「量」は少なくても「質」は高い
米国のマーケティングメディアSearch Engine Landが取り上げた最新の分析によると、ChatGPTからのEコマースサイトへの流入は、Googleなどの検索エンジンにおける「ノンブランド(非指名)オーガニック検索」と比較して、コンバージョン率が31%も高いことが判明しました。
ここで言う「ノンブランド検索」とは、特定の企業名や製品名を入れずに、例えば「ランニングシューズ おすすめ」や「夏用 ジャケット」といった一般的なキーワードで行われる検索を指します。通常、こうした検索行動は購買意欲の初期段階にあることが多く、コンバージョン率は比較的低くなる傾向があります。
一方、ChatGPTなどの生成AIを経由してサイトに訪れるユーザーは、AIとの対話を通じて既に自分のニーズを具体化し、解決策(商品)の提案を受けた状態でリンクをクリックします。つまり、サイトに到達した時点で、すでに「接客を受けた後のホットな見込み客」に近い状態になっているのです。
購買意欲は高いが、単価は低い?見えてきたAIユーザーの特性
このデータは、AIが単なる情報検索ツールから「購買アドバイザー」へと進化していることを示唆していますが、手放しで喜べるわけではありません。元記事の分析では、以下の重要な側面も指摘されています。
- 全体に占める割合は極小:現時点でAI経由の売上は、オーガニック流入全体のわずか1.5%に過ぎません。依然としてGoogle検索が圧倒的なシェアを占めています。
- 平均注文単価(AOV)は低い:AI経由のユーザーは、検索経由のユーザーよりも購入単価が低い傾向にあります。
単価が低い理由については推測の域を出ませんが、AIに対して「5000円以下で買える最高の〇〇」といった具体的な条件指定を行うことで、安価でコストパフォーマンスの良い商品をピンポイントで狙っている可能性があります。あるいは、高額な商品はまだAIの推奨だけでは決断できず、人間によるレビューや詳細な比較記事を検索エンジンで探す行動が残っているとも考えられます。
日本市場における「GEO(Generative Engine Optimization)」の重要性
この潮流は、日本国内のEコマースやWebマーケティングにも大きな示唆を与えます。これまではSEO(検索エンジン最適化)が主戦場でしたが、今後は「GEO(生成エンジン最適化)」、つまりAIにいかに自社製品を推奨してもらうかという視点が必要になります。
日本の消費者は、製品のスペックや品質、企業への信頼性を重視する傾向があります。AIが学習データとして参照しやすいよう、Webサイトの構造化データを整備することや、第三者メディアでの評価を高めることが、間接的にAIからの「指名」を増やすことにつながります。
また、日本特有の商習慣として、きめ細やかな「接客」が重視されますが、生成AIはその前段階のデジタル接客を担う存在になりつつあります。自社サイト内にLLM(大規模言語モデル)を活用したチャットボットを設置し、外部のChatGPTと同様の体験をオンサイトで提供することで、離脱を防ぎCVRを高める施策も有効でしょう。
日本企業のAI活用への示唆
今回のデータから、日本の経営層やプロダクト担当者が押さえるべきポイントは以下の3点です。
1. トラフィックの「総量」より「文脈」を重視するフェーズへ
AI経由の流入が増えれば、サイトへの訪問者数は減るかもしれませんが、購買確度は上がる可能性があります。「PV至上主義」から脱却し、AIというフィルターを通した後のユーザー体験をどう最適化するか(ランディングページの見直し等)を検討すべきです。
2. 「安価な商品」と「高額商品」のチャネル戦略の使い分け
現状、AI経由では低単価な商品が動く傾向があります。日用品や消耗品についてはAIでの指名獲得(GEO)を狙いつつ、高額で説明が必要な商材については、引き続き信頼性の高いコンテンツマーケティングや詳細なレビュー記事を通じた従来型SEOまたは対人接客への誘導を強化するハイブリッド戦略が現実的です。
3. リスク管理としてのブランド情報の正確性維持
AIは時に「ハルシネーション(もっともらしい嘘)」を出力します。誤った価格やスペックで自社商品が紹介され、流入後にクレームになるリスクもゼロではありません。公式サイトの情報を常に最新かつAIが読み取りやすい形式(構造化データなど)で保つことは、マーケティングだけでなくガバナンスの観点からも重要度が増しています。
