26 2月 2026, 木

GoogleとIntrinsicの統合に見る「フィジカルAI」の加速──ソフトウェア主導型ロボティクスが日本の製造業に突きつける課題と好機

Alphabet傘下のロボティクスソフトウェア企業IntrinsicがGoogleに統合されることが発表されました。これは、生成AIや大規模言語モデル(LLM)の進化を物理世界(ロボット)へ直接適用する「フィジカルAI」の流れが決定的になったことを意味します。本稿では、この動きが世界の産業オートメーションに与える影響と、ハードウェア強国である日本の製造業が取るべき戦略について解説します。

IntrinsicとGoogleの統合が意味するもの

産業用ロボット向けソフトウェアプラットフォームを手掛けるIntrinsicが、Google(Alphabetの「Other Bets」からGoogle本体へ)に統合されるというニュースは、AI業界において象徴的な出来事です。これまでGoogle DeepMindなどが研究レベルで進めてきた最先端のAIモデルと、Intrinsicが持つ産業現場への実装ノウハウが、組織的にも技術的にも融合することを意味するからです。

Intrinsicは設立以来、産業用ロボットのプログラミングを民主化し、高度な専門知識がなくともロボットを扱える世界の実現を目指してきました。今回の統合により、Googleが持つGeminiなどの基盤モデルや、ロボティクス向けのマルチモーダルAI技術が、より直接的に産業用ロボットの制御に応用されることが予想されます。

「フィジカルAI」とは何か:LLMからVLAへ

現在、AIのトレンドはテキストや画像を生成するデジタル空間から、物理世界で自律的に行動する「フィジカルAI(Physical AI)」へと広がりを見せています。ここで重要になるのが、VLA(Vision-Language-Action)モデルという概念です。

従来のLLM(大規模言語モデル)がテキストを理解するのに対し、VLAモデルは視覚情報(Vision)と言語(Language)を組み合わせて状況を理解し、ロボットの具体的な動作(Action)を生成します。例えば、「その赤いボトルを掴んで、右の箱に入れて」という曖昧な自然言語の指示に対し、ロボット自身がカメラ映像から物体を認識し、関節の動きを計算して実行することが可能になります。

従来の産業用ロボットとの違いとメリット

従来の産業用ロボットは、厳密なティーチング(教示)が必要でした。「座標Xから座標Yへ移動する」といったプログラムを専門のエンジニアが記述する必要があり、対象物の位置が数センチずれただけでエラーになることも珍しくありません。これは、多品種少量生産や、形が定まっていない物体(食品や衣類など)のハンドリングを困難にしていました。

GoogleとIntrinsicが推進するAI主導のアプローチは、この「硬直性」を解消します。AIが環境の変化を認識して動作を修正できるため、事前の厳密なプログラミング量を大幅に削減できます。これにより、ロボット導入のハードルが下がり、中小規模の製造現場や物流倉庫でも柔軟な自動化が可能になると期待されています。

実装における課題:安全性と精度の壁

一方で、実務的な視点からは課題も残ります。生成AIには「ハルシネーション(もっともらしい嘘)」のリスクがありますが、物理的なロボットが誤動作を起こせば、設備の破損や人身事故に直結します。

また、現在の基盤モデルは推論に一定の計算コストと時間がかかります。ミリ秒単位の制御が求められる工場のラインにおいて、クラウド経由の巨大なモデルがどこまでリアルタイム性を担保できるかは大きな技術的ハードルです。エッジAI(現場の端末側での処理)とのハイブリッド構成や、安全性を担保するガードレール機能の実装が不可欠となるでしょう。

日本企業のAI活用への示唆

ハードウェアとしてのロボット技術に強みを持つ日本企業にとって、ソフトウェアとAIが主導権を握るこの潮流は、脅威でもあり好機でもあります。以下の3点が重要な指針となります。

1. 「擦り合わせ」から「ソフトウェア・ファースト」への転換
日本の製造業は、ハードウェアと制御を密に連携させる「擦り合わせ」を得意としてきました。しかし、フィジカルAIの時代では、汎用的なAIモデルが多様なハードウェアを制御する形へとシフトします。自社ハードウェアをIntrinisicのようなプラットフォームに対応させる(APIを公開する、標準規格に準拠する)オープン戦略が、グローバル市場での生存には不可欠です。

2. 労働力不足解消への具体的手段としての採用
少子高齢化が進む日本において、熟練工の技を継承することは喫緊の課題です。従来のロボットでは自動化できなかった「曖昧な判断」を伴う作業(選別、検品、不定形物の把持など)にこそ、こうした最新のフィジカルAI技術を適用すべきです。PoC(概念実証)においては、100%の精度を目指すのではなく、「人と協働し、AIが迷った時だけ人が介入する」プロセス設計が実用化への近道です。

3. ベンダーロックインを避けたアーキテクチャ選定
GoogleやIntrinsicの技術は強力ですが、特定のプラットフォームに依存しすぎることにはリスクも伴います。AIガバナンスの観点からも、データの権利関係やモデルの透明性を確認しつつ、将来的には複数のモデルやハードウェアを切り替えられる柔軟なシステム構成(コンポーザブルな設計)を意識しておくことが、長期的な競争力につながります。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です