26 2月 2026, 木

【注意喚起】Google APIキーの「常識」が変わる──Gemini導入で高まるセキュリティリスクとガバナンス

かつてGoogle Mapsなどの利用において「フロントエンドに公開してもよい」とされていたAPIキーの運用が、生成AI(Gemini)の統合によって重大なセキュリティリスクへと変貌しています。既存のGoogle Cloudプロジェクトで安易にGeminiを有効化するリスクと、日本企業が直ちに見直すべきAPI管理・ガバナンスの要点について解説します。

Google APIキーの「かつての常識」と現状

長年、Web開発やアプリ開発の現場において、GoogleのAPIキーはある種の「緩やかさ」を持って扱われてきました。特にGoogle Maps JavaScript APIやFirebaseなどのサービスでは、APIキーをブラウザ上のJavaScriptコードやモバイルアプリ内に埋め込むことは一般的な実装パターンでした。

これらが許容されていた背景には、リファラー制限(特定のドメインからのみ実行許可)やバンドルID制限によって不正利用を防げるという前提がありました。また、万が一キーが流用されても、地図の表示回数が増える程度であれば、ビジネス上の致命的な損害には直結しにくいという側面もありました。

しかし、Googleが生成AIモデル「Gemini」のAPIをGoogle Cloudの同一エコシステムに統合したことで、このセキュリティの前提が根本から覆りつつあります。

Gemini有効化に潜む「サイレント」なリスク

問題の核心は、「既存のGoogle CloudプロジェクトでGemini APIを有効化すると、そのプロジェクトに紐づく既存のAPIキーでGeminiが利用可能になってしまう場合がある」という点です。

もし、ある企業が過去にGoogle Mapsを利用するために作成し、Webサイトのソースコード上に公開されている(誰でも閲覧可能な)APIキーを持っていたとします。開発者が「新しいAI機能を試したい」と考え、同じプロジェクト設定画面でGemini APIをONにした瞬間、その公開されたキーを使って、第三者が企業のクレジット枠で高価なLLM(大規模言語モデル)を無制限に呼び出せる状態になる恐れがあります。

元記事でも指摘されている通り、Googleの開発者コンソールは、Gemini APIを有効化する際に「このプロジェクトには公開設定されたキーが存在します」といった警告を出しません。これにより、開発者は意図せずして「地図用の鍵」を「高度なAIの実行権限」に変えてしまうのです。

LLM特有の損害リスク:高額請求とレピュテーション

地図APIとは異なり、LLMのAPIキー流出は企業に甚大な被害をもたらします。

  • 青天井のコスト: 生成AIのAPIはトークン課金やリクエスト課金が基本です。攻撃者がキーを悪用して大量のリクエストを送れば、一夜にして数百万円、数千万円単位のクラウド利用料が発生する可能性があります。
  • 不正なコンテンツ生成: 企業の認証情報を使ってスパムメールの生成や、ヘイトスピーチ、フィッシング詐欺の文面作成が行われるリスクがあります。これは企業のブランド毀損に直結します。
  • サービス停止(DoS): 攻撃者によってAPIのクォータ(利用枠)が使い切られれば、正規の自社サービスがAI機能を利用できなくなり、サービスダウンに陥ります。

日本企業のAI活用への示唆

日本企業、特に長期間Google Cloudを利用している組織や、開発を外部ベンダーに委託している組織にとって、この問題は対岸の火事ではありません。以下の3つの観点からガバナンスを見直すことを推奨します。

1. 「プロジェクトの分離」を徹底する

日本の現場では「とりあえず既存の検証環境(PoC環境)で試そう」という動きが頻繁に見られますが、これは危険です。MapsやFirebaseなどフロントエンドで利用するサービスと、Geminiのようなバックエンドで秘匿すべきサービスは、Google Cloud Project(GCPプロジェクト)のレベルで明確に分割してください。APIキーの権限管理だけで制御しようとせず、プロジェクト単位でリスクを遮断するのが最も確実な防御策です。

2. APIキーの「棚卸し」と制限設定の再確認

情報システム部門やセキュリティ担当者は、組織内のGCPプロジェクトをスキャンし、以下の条件に当てはまるキーがないか棚卸しを行うべきです。

  • APIキーの利用範囲が「すべてのAPI」に設定されていないか(特定APIのみに限定する)。
  • Gemini APIが有効化されているプロジェクトに、リファラー制限のみの(Web公開された)キーが存在しないか。

特に、過去に開発ベンダーが作成し、そのまま放置されている「野良プロジェクト」は格好の標的となります。

3. アーキテクチャの見直し(Backend for Frontend)

生成AIを組み込んだアプリケーションを開発する場合、APIキーをクライアントサイド(ブラウザやアプリ)に置くことは絶対に避けるべきです。必ず自社のサーバー(バックエンド)を経由してGoogleのAPIを叩く構成にし、APIキーはサーバー環境変数として厳重に管理してください。これは「BFF(Backend for Frontend)」と呼ばれる一般的なパターンですが、AI開発においては必須のセキュリティ要件となります。

生成AIの活用は競争力の源泉ですが、同時に従来のWeb開発とは異なるセキュリティ観点が求められます。「動けばよい」というPoC段階の甘い設定が、本番運用時の重大事故につながらないよう、今一度設定をご確認ください。

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