26 2月 2026, 木

AnthropicのVercept買収が示唆する「操作するAI」の未来と、日本企業が備えるべきエージェント化の潮流

「Claude」を提供するAnthropicが、シアトルのAIスタートアップVerceptを買収しました。この動きは、AIが単なるチャットボットから、PC画面を直接操作する「エージェント」へと進化する流れを決定づけるものです。レガシーシステムが多く残る日本企業にとって、この技術変革がもたらす機会とリスクについて解説します。

「対話」から「実務代行」へ:買収の背景にある戦略

生成AIの有力プレイヤーであるAnthropicによるVerceptの買収は、単なる技術獲得以上の意味を持ちます。Verceptは「デスクトップ上のコンピュータ操作(Computer Use)」に関する技術を持つスタートアップであり、これはAnthropicが近年力を入れている「AIエージェント」機能の中核をなす領域です。

これまでLLM(大規模言語モデル)の活用は、テキストによる質疑応答やコード生成が中心でした。しかし、現在業界の最前線では「AIが人間のようにマウスとキーボードを操作し、複数のアプリケーションを横断してタスクを完遂する」能力の開発競争が激化しています。この買収は、Claudeに「画面を見て、理解し、操作する」能力をより強固に実装し、実務プロセスへの介入度を深めようとするAnthropicの強い意志の表れと言えます。

API不要の自動化がもたらす、日本企業へのインパクト

この「Computer Use(コンピュータ操作)」という概念は、日本のIT環境において極めて重要な意味を持ちます。多くの日本企業では、API連携が不可能なレガシーシステムや、デスクトップ専用の業務アプリケーション、あるいはWebベースのSaaSが複雑に入り組んで業務が構成されています。

従来の自動化(RPAなど)は、事前のシナリオ定義が必要であり、画面レイアウトの変更に弱いという課題がありました。しかし、視覚情報をもとに操作を行うマルチモーダルなAIエージェントは、人間と同じように画面の変化に適応しながら操作を行うポテンシャルを持っています。これは、API開発やシステム刷新を行わずとも、既存の業務フロー(特にレガシーシステムが絡む領域)にAIを組み込める可能性を示唆しており、DX(デジタルトランスフォーメーション)のラストワンマイルを埋める技術として期待されます。

実用化に向けた課題:速度、コスト、そしてガバナンス

一方で、実務への導入には冷静な視点も必要です。現状の「画面操作型AI」は、推論速度(レイテンシ)やコスト、そして何より正確性の面で発展途上にあります。人間であれば無意識に行う「ポップアップを閉じる」「読み込み待ちをする」といった動作も、AIにとっては複雑な視覚処理と推論の連続であり、エラーが発生する確率はゼロではありません。

また、セキュリティとガバナンスの観点からは、より慎重な設計が求められます。AIにPC操作権限を与えることは、誤操作によるデータの削除や、予期せぬ外部への情報送信といったリスクを伴います。特に日本の商習慣においては、ミスの許容範囲が狭いため、完全にAIに任せるのではなく、「Human-in-the-loop(人間が承認プロセスに関与する)」の設計が、当面の間は必須となるでしょう。

日本企業のAI活用への示唆

今回の買収劇と技術トレンドを踏まえ、日本の意思決定者やエンジニアは以下の点に着目して準備を進めるべきです。

1. RPAとAIエージェントの境界線の見極め
定型業務は従来のRPAで、判断を伴う非定型な画面操作はAIエージェントで、という棲み分けが進みます。自社の業務フローの中で「APIはないが自動化したい判断業務」がどこにあるか、棚卸しを始める好機です。

2. 「サンドボックス」環境の整備
AIにPC操作をさせる場合、本番環境でいきなり試すのはリスクが高すぎます。仮想デスクトップ環境など、AIが誤操作しても実害が出ない隔離された検証環境(サンドボックス)をIT部門主導で用意できるかが、導入スピードを左右します。

3. 権限管理とログ監査の高度化
「誰が操作したか」に加え「AIがどの指示に基づいて操作したか」を追跡できる仕組みが必要です。日本企業の内部統制(J-SOX等)に対応するためにも、AIエージェントの操作ログを可視化・監査できるガバナンス体制の検討を早期に開始すべきです。

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