スマートフォン市場における「AI機能」の訴求が、必ずしも製品の資産価値向上に繋がらない可能性が浮上しています。Samsung Galaxy S25のリセールバリュー(再販価値)急落を報じる記事をもとに、ハードウェアとAIの統合における課題、そして日本企業が製品開発や導入選定において留意すべきポイントを解説します。
AI偏重が招いた? 驚きのリセールバリュー下落率
英国のテクノロジーメディアThe Registerなどは、Samsungのフラッグシップモデル「Galaxy S25」の中古市場における価値が、発売から12ヶ月で63%も下落したと報じました。この下落幅は近年のハイエンドスマートフォンとしては異例の大きさです。
記事の中で中古携帯電話の再販業者は、この要因としてメーカーによる「AI機能への過度な重点化(LLM emphasis)」を挙げています。これまでスマートフォンの価値は、カメラの画素数、バッテリー寿命、プロセッサ速度といった物理的かつ定量的なスペックによって支えられてきました。しかし、近年のマーケティングが「生成AIによる画像編集」や「リアルタイム翻訳」といったソフトウェア機能にシフトしたことで、ハードウェアそのものの本質的な価値が見えにくくなっているという指摘です。
「機能の陳腐化」と「クラウド依存」のジレンマ
なぜAI機能の強化が、逆説的にハードウェアの価値を下げるのでしょうか。ここには大きく2つの構造的な要因が考えられます。
第一に、AI機能の急速な陳腐化(コモディティ化)です。生成AI界隈の進化スピードは凄まじく、数ヶ月前には「革新的」とされた機能が、すぐに無料アプリやOSの標準機能として提供されるようになります。ハードウェアと不可分ではない「ソフト側のAI機能」を売りにしすぎると、その魅力が薄れた瞬間、端末そのものの価値も道連れに下がってしまいます。
第二に、処理のクラウド依存です。高度なLLM(大規模言語モデル)の処理の多くは、端末内ではなくクラウドサーバー上で行われます。ユーザーからすれば、「この機能は高性能なスマホだからできるのではなく、クラウドに繋がっているからできる」と認識されます。結果として、「高価な最新端末を所有する必然性」が薄れ、中古市場での価格維持力が低下するのです。
日本市場における「モノ」と「コト」の乖離
この現象は、ハードウェア(モノ)と体験(コト)の融合を模索する日本の製造業にとっても、看過できない警鐘を含んでいます。
日本の消費者は伝統的に、製品のビルドクオリティや物理的な耐久性、信頼性を重視する傾向があります。一方で、AI機能のようなソフトウェア体験に対しては「あくまで付加価値」と捉え、それ単体に対してハードウェア同様の高額な対価を払い続けることには慎重です。特に、AI機能がサブスクリプション(月額課金)化される傾向が強まる中、「端末代金も高く、さらにAI利用料も取られる」という二重構造に対する抵抗感は、日本市場では特に強い障壁となり得ます。
また、企業が業務用端末として導入する際にも影響が出ます。PCやスマートフォンのリース料金は、数年後の残存価値(Residual Value)を予測して設定されます。もし「AI推しの端末は値崩れしやすい」という評価が定着すれば、リース料が高騰し、企業のITコストを圧迫するリスクもあります。
日本企業のAI活用への示唆
今回の事例は、単にスマートフォンの話にとどまらず、AIを組み込んだ製品開発や、社内でのAIデバイス導入を検討する日本企業に対して、以下の重要な示唆を与えています。
- 「AI」を冠するだけのマーケティングからの脱却:
単にLLMを搭載しただけでは、製品の持続的な価値には繋がりません。ハードウェアのセンサーデータとAIを密接に連携させるなど、そのデバイスでなければ実現できない「オンデバイスAI」ならではの体験(低遅延、プライバシー保護、オフライン動作など)を作り込む必要があります。 - ハードウェア価値の再定義:
ソフトウェアで代替可能な機能ではなく、バッテリー持ちや堅牢性、人間工学に基づいた操作性など、物理的なハードウェアとしての基本性能を疎かにしてはなりません。日本の「モノづくり」の強みとAIをどう掛け合わせるかが問われています。 - 調達・資産管理におけるリスク評価:
社用端末やエッジデバイスを選定する際、AI機能の華やかさだけに目を奪われず、「そのAI機能は3年後も使えるか」「ハードウェアの陳腐化を早めないか」という視点で資産価値を見極める必要があります。特にAI専用デバイス(AI Pinなど)の導入には慎重なROI(投資対効果)判断が求められます。
