24 2月 2026, 火

生成AIサービスの「データ消失リスク」と企業が講じるべき自衛策——Geminiの事例から考える可用性とガバナンス

Googleの生成AI「Gemini」において、ユーザーのチャット履歴が消失したという報告が海外を中心に相次いでいます。この事象は、外部のAIプラットフォームに依存することのリスクを再認識させるものです。本稿では、日本企業が生成AIを活用する際、こうしたプラットフォーム側の障害やデータ消失リスクとどのように向き合い、実務的なガバナンスと技術的対策を講じるべきかを解説します。

Geminiの履歴消失が示唆する「クラウド利用の盲点」

The Registerなどの報道によれば、GoogleのGeminiユーザー、特にGemini Proなどの有料プラン利用者を含む一部のユーザーから、「チャット履歴が突然表示されなくなった」という報告が上がっています。これは単なる表示バグの可能性もありますが、クラウドサービスを利用する企業にとっては看過できないリスクを示唆しています。

多くの企業ユーザーは、日々の業務におけるアイデア出し、コード生成、ドキュメント作成の補助として生成AIのチャットインターフェースを利用しています。しかし、これらの「履歴」はあくまでサービス提供側が管理するデータであり、ユーザー企業側が物理的に保有しているものではありません。サービス側の障害、仕様変更、あるいはアカウント関連のトラブルによって、過去の対話ログ(=業務プロセスやナレッジ)が一瞬でアクセス不能になるリスクは、SaaS(Software as a Service)である以上、ゼロにはなりません。

「Web UI利用」と「API連携」のリスク管理の違い

日本企業が生成AIを導入する際、大きく分けて「Webブラウザ経由でのチャットツールとしての利用」と「APIを経由した自社システムへの組み込み」の2つのパターンがあります。今回の事例で特に脆弱性が露呈したのは前者です。

Web UI上の履歴機能は利便性のための付加機能であり、企業レベルのSLA(Service Level Agreement:サービス品質保証)において、過去データの永続性が厳密に保証されていないケースが少なくありません。一方、APIを利用して自社アプリケーションに組み込む場合、入力されたプロンプト(指示)とAIからのレスポンスを自社のデータベースやログ基盤に保存する設計が可能です。

エンジニアやプロダクト担当者は、業務クリティカルなプロセスにおいて「Web UIの履歴」を記録台帳代わりにする運用は避けるべきです。重要な意思決定や成果物に直結する対話データは、必ず自社が管理可能な領域に保存・バックアップする仕組み(MLOpsにおける実験管理やログ管理)を整える必要があります。

日本企業に求められる「証跡管理」とBCP

日本の商習慣やコンプライアンスの観点では、「なぜその意思決定に至ったか」というプロセスや「証跡(Audit Trail)」が重視されます。AIが生成したコードや契約書のドラフトを採用した場合、その根拠となった対話履歴が消失することは、説明責任を果たせなくなるリスクに直結します。

また、BCP(事業継続計画)の観点からも、特定のAIベンダーのサービスが一時的に利用不能になったり、データが参照できなくなったりした場合の代替手段を検討しておく必要があります。これには、マルチLLM(複数の大規模言語モデル)対応のアーキテクチャを採用することや、最悪の場合はローカルLLMで最低限の業務を継続できる体制を整えるといった選択肢が含まれます。

過度な内製化はコスト増につながりますが、少なくとも「外部サービスのチャット履歴は消える可能性がある」という前提に立ち、重要なナレッジは速やかに社内のドキュメント管理システムやプロジェクト管理ツールへ転記・保存する業務ルールを徹底することが、最も即効性のあるリスク対策となります。

日本企業のAI活用への示唆

今回のGeminiにおける事象は、AIサービス選定と運用設計において重要な教訓を与えています。日本企業の意思決定者および実務担当者は、以下の3点を再確認すべきです。

1. チャット履歴を「保管場所」にしない
Web UI上の履歴機能は一時的なメモと考え、業務上重要なアウトプットやプロセスは、直ちに自社の管理下にあるシステム(社内Wiki、Git、CRMなど)へ保存する運用ルールを策定してください。

2. クリティカルな業務はAPI利用へ移行する
ログの消失が許されない業務や、監査対応が必要なプロセスにおいては、Web UIでの利用を禁止し、自社でログ保存機構を実装したAPI経由の社内アプリケーション利用へ誘導することを推奨します。

3. ベンダーリスクの分散と契約内容の確認
特定の一社に依存しすぎないよう、バックアップとして他社の生成AIサービスも利用できる環境を準備すること、また有料契約においてはデータの可用性やバックアップに関する条項がどの程度保証されているか、法務部門と連携して再確認することが重要です。

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