米国の商業不動産ブローカーの株価下落は、AIによる業務自動化が仲介手数料(フィー)の低下を招くという投資家の懸念を反映しています。しかし、業界幹部は「人間的なタッチ」の重要性を主張します。この対立構造は、不動産業界に限らず、あらゆる「仲介・媒介ビジネス」に変革を迫るものです。本稿では、AI時代の仲介業務のあり方と、日本企業がとるべき戦略について解説します。
米国で表面化した「仲介機能」への懸念
ウォール・ストリート・ジャーナルが報じたところによると、商業不動産仲介会社の株価が下落傾向にあります。その背景にあるのは、生成AIや高度なデータ分析技術が普及することで、物件の検索、市場データの分析、さらには契約書のドラフト作成といった伝統的なブローカーの業務が自動化され、彼らの受け取る手数料(フィー)が正当化できなくなるのではないか、という投資家の懸念です。
これまで仲介業者の価値の源泉の一つは「情報の非対称性」にありました。つまり、一般にはアクセスしにくい物件情報や市場データを独占的に保有していることが強みでした。しかし、AIとオープンデータの組み合わせにより、誰でも瞬時に最適な物件を見つけ出し、適正価格を算出できるようになれば、単なる「情報の仲介」に高いコストを支払う顧客はいなくなります。
生成AIが代替するもの、人間に残るもの
一方で、業界の経営層は「ヒューマン・タッチ(人間的な関わり)」の重要性は変わらないと反論しています。確かに、AIは膨大なデータ処理や定型的なタスクには長けていますが、商業不動産の取引のような複雑で高額な意思決定においては、それだけでは完結しません。
例えば、ステークホルダー間の利害調整、交渉の機微を読む力、将来の都市開発計画や法規制の変更を見越した戦略的なアドバイス、そして何より「信頼関係」に基づく最終的な意思決定の支援は、依然として人間にしかできない領域です。AIはあくまで「強力なコパイロット(副操縦士)」であり、それを使いこなす人間の専門性がより問われるようになるでしょう。
日本の商習慣とAI活用のリアリティ
日本国内に目を向けると、不動産やM&A、人材紹介などの仲介ビジネスは、依然としてFAXや電話、対面でのやり取りが根強く残る「アナログ」な側面と、宅地建物取引業法などの法規制に守られた領域です。しかし、少子高齢化による深刻な人手不足(2024年問題など)を背景に、業務効率化は待ったなしの状況です。
日本では、AI導入による「手数料の低下」を恐れるよりも先に、「限られた人員でいかに業務を回し、付加価値を高めるか」という文脈でAIを捉えるべきです。例えば、重要事項説明書の作成補助や、ポータルサイトへの物件登録作業、一次問い合わせへのチャットボット対応などにAIを活用することで、人間は「人間にしかできない顧客対応」に時間を割くことが可能になります。
日本企業のAI活用への示唆
今回の米国の動向と日本の現状を踏まえ、仲介機能を持つ日本企業や、AI導入を検討する組織への実務的な示唆は以下の通りです。
- 「情報の非対称性」ビジネスからの脱却:単に情報を右から左へ流すだけのビジネスモデルは、AIによって急速にコモディティ化します。情報を握るのではなく、「情報をどう解釈し、顧客の意思決定をどう支援するか」というコンサルティング機能へ軸足を移す必要があります。
- AIと人間の役割分担の明確化:業務プロセスを分解し、「AIに任せるべき定型業務(検索、要約、ドラフト作成)」と「人間が担うべき高付加価値業務(交渉、心理的ケア、最終判断)」を明確に定義してください。これにより、従業員のAIに対する不安(仕事が奪われるという懸念)を払拭し、生産性向上へのモチベーションに変えることができます。
- 日本特有の「信頼」と「効率」のハイブリッド:日本では対面での信頼関係が重視されます。AI導入を「無機質な自動化」にするのではなく、AIでバックオフィス業務を徹底的に効率化し、その分、顧客との対話時間を増やすというストーリーでDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進することが、組織内外の納得感を得る鍵となります。
