Googleが「OpenClaw」などの特定ツールを利用する有料プラン(Pro/Ultra)契約者に対し、利用制限を行っているという報告がエンジニアコミュニティで議論を呼んでいます。本件は単なる特定のツール利用可否の問題にとどまらず、日本企業が生成AIを自社プロダクトや業務フローに組み込む際に留意すべき「API利用規約(ToS)の遵守」と「サードパーティ製ツールの選定リスク」という、極めて実務的な課題を浮き彫りにしています。
非公式ツール利用によるアカウント制限のリスク
Hacker Newsをはじめとする技術コミュニティでは、Googleの生成AIサービス「Gemini」の有料サブスクライバーであっても、「OpenClaw」のような特定のサードパーティ製ツールを経由してAPIを利用した場合、アカウントに制限がかけられる事例が報告されています。
多くの企業では、生成AIのAPIを扱う際に、開発効率を上げるためにオープンソースのラッパー(API操作を簡略化するプログラム群)やCLIツールを利用することが一般的です。しかし、これらのツールがGoogleの定める利用規約(ToS)やAPI利用ポリシーに抵触する挙動——例えば、許可されていないスクレイピングのような動作や、過度なリクエスト送信——を行っている場合、ユーザー自身に悪意がなくともペナルティの対象となるリスクがあります。
技術的背景:APIリクエストの「行儀良さ」とバックオフ制御
今回の議論の中で注目すべき技術的なポイントとして、公式や準公式のツール(例:gemini-cli)における「リトライバックオフ(Retry Backoff)」の設定が挙げられます。バックオフとは、通信エラーが起きた際に、即座に再接続するのではなく、一定時間待機してから再試行する仕組みのことです。
議論されているコードベースでは、デフォルトで5秒という比較的長い待機時間が設定されていることが指摘されています。これはサーバーへの負荷を抑える「行儀の良い」振る舞いですが、一部の非公式ツールや攻撃的なスクリプトは、この待機時間を無視して短期間に大量のリクエストを送る(スパム的な挙動をとる)ように設計されている場合があります。
プラットフォーマー側は、インフラ保護の観点からこうした「行儀の悪い」アクセス元を厳しく監視しており、たとえ有料顧客であっても、システム全体の安定性を脅かす接続は遮断するという強い姿勢が見て取れます。
日本企業における「シャドーAI」とライブラリ依存の課題
日本の開発現場において、開発スピードを優先するあまり、GitHub上で人気のある非公式ライブラリを安易に採用してしまうケースは少なくありません。しかし、そのライブラリが内部でどのようなAPIコールを行っているか、プラットフォーマーの規約変更に追従できているかを精査している組織は少数派です。
特に「業務効率化」や「社内DX」の名目で、エンジニア主導で導入されたツールが、知らぬ間にプラットフォームの禁止事項に抵触し、ある日突然、企業全体のアカウントが停止されるという事態は、ビジネス継続性(BCP)の観点から最大のリスクとなります。Google CloudやAzure、AWSなどのエンタープライズ契約と異なり、個人向けプランや簡易的なAPI利用においては、こうした制限が予告なく適用される可能性が高い点に注意が必要です。
日本企業のAI活用への示唆
今回の事例を踏まえ、日本企業が生成AIを実務に適用する際には、以下の3点を再確認する必要があります。
1. 公式SDKとエンタープライズ契約の推奨
プロトタイピング段階では便利な非公式ツールでも、本番運用においてはGoogle Cloud(Vertex AI)などの公式SDKを利用し、SLA(サービス品質保証)が担保されたエンタープライズ契約下で利用することが基本です。これにより、予期せぬアカウントBANのリスクを回避できます。
2. 使用ライブラリのガバナンス強化
開発チームが使用しているAI関連ライブラリが「どのようにAPIを叩いているか」を把握する必要があります。特にリトライ処理やレートリミット(回数制限)への対応が適切に実装されているか、コードレビューや選定基準に含めるべきです。
3. 「動かなくなること」を前提とした設計
特定のAPIやツールに過度に依存せず、万が一利用制限がかかった場合でも、別のモデルやバックアップ手段に切り替えられるような疎結合なアーキテクチャ(LLMの抽象化層を設けるなど)を検討することが、安定したサービス提供には不可欠です。
