美容・ウェルネス業界の予約プラットフォームFreshaが発表した「APAC市場におけるオンライン予約の4分の1がGoogle Gemini等のLLM経由である」という事実は、AI活用のフェーズが「情報検索」から「行動代行」へと移行し始めたことを示唆しています。本記事では、このトレンドが日本の商習慣や顧客接点に与える影響と、企業が講じるべき実務的な対応策について解説します。
「探す」AIから「予約する」AIへのパラダイムシフト
英国発の美容・ウェルネス予約プラットフォームFreshaが公開したデータによると、アジア太平洋(APAC)市場において、Google Geminiをはじめとする大規模言語モデル(LLM)やAIエージェントを経由した予約が、全体のオンライン予約の25%に達しているとのことです。これは単なる特定のツールの普及を示す数字ではありません。消費者の行動様式が、検索エンジンで「情報を探して自分で判断する」スタイルから、AIに対して「最適なサービスを見つけ、予約まで完了させる」というエージェント(代理人)型の利用へと急速に変化していることを意味します。
これまで企業はSEO(検索エンジン最適化)に注力してきましたが、今後は「AIにいかに自社の商品・サービスを認識させ、推奨させるか」という新たな視点が必要になります。生成AIが単なるチャットボットを超え、実世界でのアクション(予約、購入、登録)を伴うフェーズに入ったことは、顧客接点の設計を根本から見直す契機となるでしょう。
日本の「ポータル依存」からの脱却とデータ構造化の重要性
日本市場において、この「AIエージェントによる予約」が普及する過程で最大の障壁となるのが、独自の商習慣である「大手ポータルサイトへの依存」と「非構造化データ」の問題です。
日本の飲食や美容、宿泊業界では、予約機能が特定の集客ポータルサイト(アグリゲーター)内に閉じているケースが一般的です。しかし、Google GeminiのようなグローバルなAIエージェントは、Web全体から情報を収集し、APIを通じて直接的なアクションを起こそうとします。もし自社の予約システムがAPI開放されていなかったり、空き枠情報がリアルタイムで外部から参照できない仕様(電話予約のみ、FAX連携など)であったりする場合、AIエージェントは「予約可能な店舗」として認識できず、選択肢から除外してしまうリスクがあります。
日本企業がこの潮流に乗るためには、自社のサービス情報をAIが理解しやすい形式(構造化データ)で整備し、可能な限りAPI経由での在庫確認や予約実行ができる環境を整える「AIレディネス(受入準備)」が急務となります。
AIエージェント活用のリスクとガバナンス
一方で、AIエージェントによる自動予約にはリスクも伴います。生成AI特有の「ハルシネーション(もっともらしい嘘)」により、実際には空いていない時間を予約可能と誤認してユーザーに提示してしまったり、店舗のポリシー(キャンセル規定など)を正確に伝えないまま予約を確定させたりするトラブルが想定されます。
特に「おもてなし」や「正確性」を重視する日本のサービス業において、AIのミスによるダブルブッキングや顧客との認識齟齬は、ブランド毀損に直結します。企業側は、AI経由の予約に対して人間による確認プロセスを挟むか、あるいはシステム側で厳格なバリデーション(妥当性確認)を行う仕組みを導入するなど、技術と運用の両面でリスク管理を行う必要があります。
日本企業のAI活用への示唆
今回のAPAC市場での事例を踏まえ、日本の経営層やプロダクト担当者が意識すべき点は以下の通りです。
- 「AIに選ばれる」ためのデータ整備:
自社サイトや予約システムが、Schema.orgなどの標準規格に準拠した構造化データを持っているか確認してください。AIが自社のサービス内容、価格、空き状況を機械的に読み取れる状態にすることが、次世代のSEO対策(AIO:AI Optimization)となります。 - プラットフォーム戦略の再考:
特定の国内ポータルサイトだけに依存するのではなく、Google等のグローバルプラットフォームや、将来的なAIエージェントからの直接流入を受け入れられるよう、自社予約システムのAPI連携能力を高めることが重要です。 - 顧客体験(CX)の再設計:
「人間が操作する画面」だけでなく「AIがアクセスするインターフェース」を想定したシステム設計が求められます。AIエージェントを新たな「顧客」の一種と見なし、スムーズにトランザクションを完了させるための導線を確保することが、機会損失を防ぐ鍵となります。
