23 2月 2026, 月

AIによるレガシーシステム刷新の必然性──「2025年の崖」を超えるための現実解とリスク

インドの大手ITサービス企業Infosysの会長が「もはや組織がレガシーシステムを維持する言い訳は通用しない」と発言し、注目を集めています。生成AIの高度なコード理解・生成能力は、日本企業が長年抱える「技術的負債」の解消にどう寄与するのか。グローバルの潮流と日本固有の課題を照らし合わせ、その可能性と実務上の限界を解説します。

「維持する言い訳」が通用しない時代の到来

インドのIT大手Infosysのナンダン・ニレカニ会長が発した「AIの登場により、組織がレガシーシステムを維持し続ける言い訳はなくなった」という言葉は、グローバルなIT業界における潮目の変化を象徴しています。これまで、古くなった基幹システム(レガシーシステム)の刷新は、莫大なコスト、時間、そして移行リスクを伴う「パンドラの箱」でした。しかし、大規模言語モデル(LLM)をはじめとする生成AIの進化が、この前提を覆しつつあります。

なぜ今、AIによるモダナイゼーション(近代化)が叫ばれているのでしょうか。それは、AIが単にコードを書くだけでなく、「既存の複雑なコードを読み解き、仕様を逆算し、テストケースを生成する」能力を飛躍的に向上させたためです。これまで熟練エンジニアが数ヶ月かけて行っていた現行システムの解析を、AIが短時間で補完できるようになったことが、この発言の背景にあります。

日本企業における「2025年の崖」とAIの親和性

この動向は、経済産業省が警鐘を鳴らした「2025年の崖」問題に直面する日本企業にとって、極めて重要な意味を持ちます。日本国内では、長年運用されてきたメインフレームや、ドキュメント(仕様書)が更新されずにブラックボックス化したシステムが数多く存在します。これらを保守してきたベテランエンジニアの退職が進む中、システムの維持は経営リスクそのものです。

AIを活用したレガシーマイグレーション(移行)は、以下の3つの領域で日本企業にメリットをもたらす可能性があります。

  • 仕様の可視化:ソースコードから自然言語による設計書や仕様書を逆生成(リバースエンジニアリング)し、失われたドキュメントを復元する。
  • 言語変換の効率化:COBOLや古いJavaで書かれたロジックを、PythonやGoなどのモダンな言語へ変換する際の下書きを作成する。
  • テストの自動化:移行前後の挙動が一致しているかを確認するためのテストコードを大量に生成し、品質保証の工数を削減する。

「魔法の杖」ではない:実務的なリスクと限界

一方で、意思決定者やエンジニアは「AIに任せれば自動的にシステムが新しくなる」という幻想を抱くべきではありません。AIによるレガシー刷新には、明確なリスクと限界が存在します。

まず、「ハルシネーション(もっともらしい嘘)」のリスクです。AIが生成したコードや解説には、誤りが含まれる可能性があります。特に金融や医療など、ミッションクリティカルな領域では、AIの出力結果を人間が厳密に検証(Human-in-the-Loop)するプロセスが不可欠です。AIはあくまで「優秀な副操縦士」であり、機長にはなれません。

次に、「設計思想の継承」という問題です。古いシステムのスパゲッティコード(整理されていない複雑なコード)をAIでそのまま新しい言語に翻訳しても、それは「新しい言語で書かれたスパゲッティコード」にしかなりません。アーキテクチャ(構造)の見直しや、クラウドネイティブな設計への再構築といった上位レベルの判断は、依然として人間のアーキテクトに委ねられています。

日本企業のAI活用への示唆

Infosys会長の発言を日本企業が咀嚼し、アクションに繋げるためのポイントは以下の通りです。

  • 「完全自動」ではなく「支援ツール」として導入する:AIをコードの書き換えそのものだけでなく、まずは「現状分析」や「ドキュメント生成」といった、人間が手を付けにくい泥臭い作業の省力化に活用すべきです。
  • ガバナンスとセキュリティの確保:自社のレガシーコード(知的財産や機密情報を含む)を外部のAIモデルに入力する際のリスク管理が必要です。エンタープライズ版のAI利用や、ローカル環境で動作する小規模モデル(SLM)の活用を含めたポリシー策定が求められます。
  • 内製化能力の再評価:AIがコードを書く時代になっても、そのコードの良し悪しを判断する能力は必要です。ベンダーへの丸投げ体質から脱却し、AIが出力した成果物を評価できるエンジニアを社内で育成・確保することが、真のモダナイゼーションへの近道となります。

AIはレガシーシステムという「負債」を解消する強力な武器になり得ますが、それを使いこなすのは組織の意思決定と現場の技術力です。「言い訳ができない」という言葉をプレッシャーではなく、変革への好機と捉える姿勢が求められています。

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