大手ウェブプラットフォームの利用規約において、禁止事項の定義が従来の曖昧な「自動化手段(Automation)」から、「LLM駆動ボット」や「購買代行エージェント」へと具体化し始めています。この変化は、生成AIが単なるデータ分析ツールから「行動するエージェント」へと進化したことを意味し、外部データ連携や自動化ツールを活用する日本企業の戦略にも大きな影響を及ぼします。
「自動化」から「LLM・エージェント」への定義変更が意味するもの
Hacker Newsなどで話題となっているあるプラットフォームの規約改定(2026年発効予定)は、今後のWebエコシステムの分水嶺となる可能性があります。従来、多くのWebサービスは利用規約(ToS)で「スクレイピング」や「自動化された手段(automated means)」によるアクセスを禁止してきました。しかし、最新の規約案では「buy-for-me agents(購買代行エージェント)」や「LLM-driven bots(LLM駆動ボット)」といった、具体的なAI技術やユースケースを名指しで禁止対象に含め始めています。
これは、従来の「ルールベースのスクリプト」と、現在の「推論能力を持つAI」の質的な違いをプラットフォーム側が深刻に受け止めている証拠です。LLMを搭載したボットは、人間のように文脈を理解し、CAPTCHA(画像認証)を突破したり、複雑な画面遷移をこなしたりすることが可能になりつつあります。プラットフォーム側にとって、これらは単なるサーバー負荷の問題を超え、ビジネスモデルそのものを揺るがす存在になり得るのです。
「行動するAI」とプラットフォームの利益相反
特に注目すべきは「buy-for-me agents(購買代行エージェント)」への言及です。これは、ユーザーの代わりにAIが商品を検索し、比較し、決済まで行う自律型エージェントを指します。
ユーザーにとっては利便性が高い技術ですが、プラットフォーム側にとっては以下のリスクがあります。
- 広告収益の喪失:AIが直接商品データにアクセスして購入を行うと、Webサイト上の広告が人間に閲覧されなくなります。
- 顧客接点の希薄化:ユーザー体験(UX)をAIエージェント側が掌握してしまい、プラットフォームは単なる「データと商品の倉庫」になってしまいます。
このため、今後は多くのサービスが「人間による直接利用」と「API経由の利用」を厳格に区分し、AIエージェントによる無断アクセスを技術的・法的に遮断する動きが加速すると予測されます。
日本企業における法的・実務的インパクト
この動向は、他社プラットフォームの情報を活用してサービスを展開しようとする日本企業にとって無視できないリスクとなります。
日本では著作権法第30条の4により、AIの学習(トレーニング)目的でのデータ利用は比較的広範に認められています。しかし、今回の規約変更がターゲットにしているのは「学習」ではなく、稼働中のAIによる「推論・実行(アクセス)」のフェーズです。
日本の法制度下でも、Webサイトの利用規約(契約法)に同意してサービスを利用している場合、著作権法の例外規定よりも契約内容が優先されるケースが一般的です。つまり、「法律上はOKでも、規約違反によりアカウント停止や法的措置を受ける」リスクが高まります。特に、RPA(Robotic Process Automation)や自社開発のクローラーにLLMを組み込み、競合調査や調達業務を自動化している企業は、利用先サイトの規約変更を注視する必要があります。
日本企業のAI活用への示唆
グローバルな規約変更のトレンドを踏まえ、日本企業は以下のポイントを押さえてAI活用を進めるべきです。
1. 「スクレイピング依存」からの脱却と正規APIの活用
外部サイトの情報を取得してLLMに処理させる際、安易なスクレイピングやヘッドレスブラウザ(画面を表示せずにWeb操作する技術)でのアクセスは持続可能性が低くなっています。多少コストがかかっても、公式API契約を結ぶか、許諾されたデータセットを利用することが、中長期的な「プラットフォームリスク」の回避につながります。
2. ガバナンスにおける「エージェント」の定義
社内のAI利用ガイドラインにおいて、ChatGPTのようなチャットツールの利用だけでなく、「外部サイトに対してアクションを行うAIエージェント」の利用制限や承認フローを設ける必要があります。知らぬ間に社員が開発したボットが、取引先や重要プラットフォームの規約に違反し、企業全体のアクセス権限が剥奪されるリスクがあるためです。
3. 自社サービスの防衛策の検討
逆に、自社がWebサービスを提供している側である場合、自社のデータや在庫が他社のAIエージェントによって買い占められたり、無断で学習・利用されたりするリスクを想定する必要があります。robots.txt(検索エンジンの拒否設定)だけでなく、利用規約において「AIエージェントによるアクセス」をどう扱うか、法務部門と連携して明文化を検討する時期に来ています。
