LinkedInのライアン・ロスランスキーCEOが語るAI時代の労働市場の変革。職歴や肩書きよりも「スキル」が重視される世界的な潮流の中で、日本企業はどのように組織能力を再定義し、リスキリングと採用を進めるべきかを解説します。
「職種」から「スキル」へ:採用と評価のパラダイムシフト
LinkedInのCEO、ライアン・ロスランスキー氏が強調するのは、AIの普及に伴う労働市場の根本的な変化です。かつて重要視されていた「過去の職歴」や「出身大学の学位」といったシグナルは、急速にその価値を相対化させています。代わりに台頭しているのが「スキル・ファースト(Skills-First)」という考え方です。
生成AI(Generative AI)の登場により、コーディングや文章作成といったハードスキルの多くが自動化・効率化されつつあります。これにより、企業は「その人がどこの会社にいたか」ではなく、「AIを活用して具体的な課題を解決できるスキルを持っているか」を問うようになっています。日本企業においても、従来の「メンバーシップ型雇用(人に仕事を割り当てる)」から、実務能力を重視する「ジョブ型雇用(仕事に人を割り当てる)」への移行が議論されていますが、AIはこの流れを不可逆的なものへと加速させています。
ソフトスキルの再評価と「AIリテラシー」の融合
AIが技術的なタスクを担う割合が増えるほど、人間には「人間ならではのスキル」が求められます。ロスランスキー氏の指摘およびLinkedInのデータによれば、コミュニケーション、リーダーシップ、戦略的思考といったソフトスキルの重要性がむしろ高まっています。
しかし、ここで誤解してはならないのは、単に「対人関係が良ければいい」わけではないという点です。現代のソフトスキルには、「AIといかに対話し、AIから適切なアウトプットを引き出すか」という、いわゆるプロンプトエンジニアリング的な要素や、AIの出力結果を批判的に評価するクリティカルシンキングが含まれます。日本のビジネス現場では、稟議や根回しといった従来の調整能力に加え、デジタルツールを前提とした新しいコミュニケーション能力(デジタル・フルエンシー)が必須となりつつあります。
急成長するAI関連職種と日本の現状
グローバルでは「Head of AI(AI責任者)」や「AIエンジニア」といった職種が急増していますが、同時に既存の職種におけるAIスキルの需要も爆発的に伸びています。マーケター、営業、法務担当者であっても、AIツールの活用が前提となりつつあるのです。
日本企業における課題は、AI人材を「IT部門」や「DX推進室」といった特定の部署に閉じ込めてしまう傾向があることです。真の業務効率化や新規事業開発は、現場のドメイン知識を持つ担当者がAIスキルを習得したときにこそ生まれます。外部から高額なAI専門家を雇うだけでなく、既存社員のドメイン知識とAI活用能力を掛け合わせる「リスキリング(学び直し)」が、日本企業にとって最も現実的かつ効果的な戦略となるでしょう。
日本企業のAI活用への示唆
LinkedInのデータとロスランスキー氏の視点を日本の文脈に落とし込むと、以下の3つの実務的な示唆が得られます。
1. 人材要件の「脱・固定化」と柔軟な組織設計
固定的な職務記述書(ジョブディスクリプション)に縛られすぎず、プロジェクトベースで必要なスキルセットを定義し直す必要があります。「AI担当」を特別視せず、全ての職種において「AI活用スキル」を基礎要件(リテラシー)として組み込む人事制度の改定が急務です。
2. 「守りのガバナンス」を担う人材の育成
日本企業はコンプライアンス意識が高いため、AI導入において著作権侵害や情報漏洩のリスクを懸念し、導入が遅れる傾向があります。これを突破するためには、技術だけでなく法規制や倫理ガイドラインに精通した「AIガバナンス」を担える人材を育成・配置することが重要です。エンジニアと法務部門の橋渡しができる人材が、企業のAI活用スピードを決定づけます。
3. 実務直結型のリスキリング支援
「Pythonを学ぶ」といった汎用的なプログラミング研修だけでなく、「自社の営業データをAIに分析させる方法」や「議事録作成を自動化するワークフローの構築」など、翌日から業務に使える実践的なトレーニングへの投資が必要です。成功体験を小さな単位で積み重ねることが、組織全体のAI受容性を高める鍵となります。
