22 2月 2026, 日

米中対立の狭間で独自路線を行くインドAI戦略──「第3の極」が日本企業に問いかけるもの

ニューデリーで開催された「AI Impact Summit」において、インドは米国と中国というAI超大国の間で独自の立ち位置を明確にしようとしています。巨大テック企業主導の米国モデルとも、国家管理型の中国モデルとも異なる「第3の道」を模索するインドの動きは、同じくアジアに位置し、米国の同盟国でありながら独自のAI戦略を必要とする日本企業にとっても、極めて重要な示唆を含んでいます。

米中の二項対立を超えて:インドが目指す「AIの民主化」

現在、世界のAI開発は、OpenAIやGoogleを筆頭とする米国勢と、国家主導で急速に技術力を高める中国勢による覇権争いの様相を呈しています。しかし、ニューデリーで開催されたAIサミットで見えてきたのは、そのどちらにも完全には与しないインドの戦略的な立ち回りです。

インドは、豊富なIT人材と人口規模を背景に、AIを一部の特権的なツールではなく、社会課題解決のための「公共インフラ」として捉えるアプローチを強調しています。これは、インドが成功を収めたデジタル公共インフラ(DPI:Digital Public Infrastructure)の考え方をAIにも適用しようとするものです。つまり、最先端の性能競争(スペック競争)だけでなく、低コストで多様な言語・文化に対応し、グローバルサウス(新興・途上国)でも利用可能な「適正技術としてのAI」を志向しています。

日本企業が注目すべき「インド流」の実利主義

このインドの動きは、日本企業にとって単なる国際ニュースではありません。日本のAI活用は、ともすればシリコンバレー発の技術動向に追従しがちですが、インドの姿勢からは「自国の商習慣や言語、社会課題に即したAIエコシステム」をどう構築するかというヒントが得られます。

インドは英語圏でありながら、ヒンディー語をはじめとする多言語対応や、低スペックなデバイスでも動作する軽量なモデルの開発に注力しています。日本企業においても、日本語特有のハイコンテクストなコミュニケーションや、個人情報保護法、著作権法といった国内法規制に適合した「日本独自のAI実装」が求められています。すべてを米国の巨大LLM(大規模言語モデル)に依存するのではなく、オープンソースモデルの活用や、特定ドメイン(領域)に特化した小規模モデル(SLM)の組み合わせを検討する際、インドの実利的なアプローチは参考になるはずです。

オフショアから「共創パートナー」への転換

かつて日本企業にとってのインドは「コスト削減のためのITアウトソーシング先」でした。しかし、AI時代においてはその認識を改める必要があります。現在のインドは、世界のAI論文数やGitHubでの貢献度においてトップクラスの地位を確立しつつあります。

日本国内でAIエンジニア不足が叫ばれる中、インドの高度なAI人材と連携することは、開発スピードを維持するために不可欠となりつつあります。ただし、単なる発注・受注の関係ではなく、AIの倫理規定やガバナンス基準を共有した上での「共創(Co-creation)」が求められます。特に、生成AIにおけるハルシネーション(もっともらしい嘘)のリスクやバイアスへの対応は、文化的な背景が異なるチーム間でのすり合わせが難しいため、より綿密なコミュニケーション設計が必要です。

日本企業のAI活用への示唆

今回のサミットおよびインドの動向を踏まえ、日本の経営層や実務責任者は以下の3点を意識すべきです。

1. 「AIのサプライチェーン」のリスク分散
米国製モデル(GPT-4等)への一本足打法は、地政学的リスクや為替変動、API仕様変更の影響をダイレクトに受けます。インドや欧州、そして日本国内の国産モデルを含めた「モデルの多様化(Model Diversity)」を技術戦略に組み込み、ベンダーロックインを回避するアーキテクチャを設計してください。

2. 「ソブリンAI(AI主権)」視点の導入
インドが自国のデータを守り、自国の利益のためにAIを使おうとしているように、日本企業も自社のコアデータや顧客データを無自覚に海外サーバーへ送るのではなく、データの保管場所や学習への利用可否を厳格にコントロールする必要があります。オンプレミスやプライベートクラウドでのLLM運用など、機密性を重視した環境構築が競争力の源泉となります。

3. グローバルサウス市場への展開視点
日本国内市場が縮小する中、インドや東南アジアへのサービス展開を考える企業にとって、現地のAI事情を理解することは必須です。ハイエンドなGPUを必要とする重量級のAIサービスではなく、現地の通信環境やデバイス事情に合わせた「軽量で安価なAI実装」のノウハウを蓄積することが、次なるビジネスチャンスにつながります。

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