19 2月 2026, 木

Canvaの成長に見る「LLM経由の流入(LLM Referrals)」という新たな集客チャネルと、日本企業が備えるべきSEOの次

デザインプラットフォームCanvaが年間収益40億ドルを突破し、その成長要因の一つとして「LLMからのリファラル(紹介)」が注目されています。ユーザーが検索エンジンではなくChatGPTなどの対話型AIを通じてツールを発見・利用し始めている現状は、従来のSEOやマーケティング戦略の転換点を示唆しています。本記事では、このトレンドの背景と、日本企業が直面する「AI時代の集客・製品設計」の課題について解説します。

検索から「対話型発見」へのシフト

Canvaが40億ドルの収益マイルストーンを達成した背景には、もちろん同社が提供するAI機能(Magic Studioなど)の利便性向上がありますが、見逃せないのは「LLM Referrals(大規模言語モデルからの流入)」という新しいチャネルの台頭です。

これまで、ユーザーが新しいツールを探す際はGoogle検索が主流でした。しかし現在、多くのユーザーがChatGPTやPerplexity、ClaudeなどのLLMに対し、「プレゼン資料を効率的に作りたい」「ロゴを作成するベストな方法は?」と問いかけます。AIはその回答の中で、具体的な解決策としてCanvaを推奨したり、直接ツールを呼び出したりするようになっています。

これは、従来の「検索エンジンの上位表示(SEO)」に加え、「AIにいかに推奨されるか」という、いわゆるGEO(Generative Engine Optimization)LLMO(LLM Optimization)の重要性が高まっていることを意味します。製品そのものの質や知名度が、AIの学習データ内での「権威性」として蓄積され、それが直接的な集客につながる時代に入りました。

プロダクト体験の再構築:AIの「手足」となるツールへ

「LLMからの流入」が増えているもう一つの要因は、CanvaがLLMのプラグインやエコシステムに深く入り込んでいる点にあります。単にAIに名前を挙げてもらうだけでなく、ChatGPTなどのインターフェース上からCanvaの機能を直接呼び出し、ドラフトを作成させるといったシームレスな連携が進んでいます。

これは日本のSaaSやWebサービス開発者にとっても重要な視点です。これまでのUI/UX設計は「人間が画面を操作する」ことを前提としていましたが、今後は「AIエージェントがAPI経由でツールを操作する」ことを前提とした設計が求められます。自社サービスがAIにとって「使いやすい道具(スキル)」として認識されていなければ、ユーザーの選択肢に入る前に、AIの選定プロセスから漏れてしまうリスクがあります。

日本企業のリスクと課題:SEO偏重からの脱却

日本のデジタルマーケティング市場では、依然として検索広告やSEOへの予算配分が支配的です。しかし、若年層やテック系ユーザーを中心に、検索行動そのものが生成AIとの対話へとシフトしつつあります。

日本企業がこの変化に対応する際、以下の課題が浮上します。

  • 構造化データの不足: 自社の製品情報やドキュメントが、AIにとって読み解きやすい形式で公開されていない場合、LLMは正確な情報を学習できず、結果として回答に含まれません。
  • ブランドの権威性: LLMは確率的に「もっともらしい」回答を生成します。特定のニッチな領域で圧倒的なシェアや言及数(サイテーション)がない場合、汎用的な海外ツールばかりが推奨される可能性があります。
  • プラットフォーム依存のリスク: Googleのアルゴリズム変更に一喜一憂してきたのと同様、OpenAIやGoogle(Gemini)のモデル調整一つで、流入が激減するリスクも孕んでいます。

日本企業のAI活用への示唆

Canvaの事例は、AI機能の実装だけでなく「AI時代におけるポジショニング」の勝利と言えます。日本の意思決定者やプロダクト担当者は、以下の点を戦略に組み込む必要があります。

1. GEO(生成AI最適化)を意識した情報発信
自社サイトの情報をAIが学習しやすい構造に整理し、信頼できる一次情報として発信し続けることが、結果としてAIからの推奨獲得につながります。技術ブログやホワイトペーパーの質が、これまで以上に重要になります。

2. 「AIから使われる」ことを想定したAPI設計
自社プロダクトをChatGPTやその他のAIエージェントから操作可能にするAPIやプラグインの開発を検討してください。これは単なる機能追加ではなく、将来的な販売チャネルの開拓と同義です。

3. マルチチャネルでのブランド構築
AIによる推奨はブラックボックスな部分が多く、完全にコントロールすることは不可能です。LLM経由の流入を狙いつつも、それに依存しすぎず、コミュニティ形成や直接的な顧客エンゲージメントを強化する「指名検索されるブランド作り」が、日本市場においては最も堅実なリスクヘッジとなります。

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