デザインプラットフォーム大手のCanvaが年間収益40億ドルを達成した背景には、従来の検索エンジンだけでなく、大規模言語モデル(LLM)経由のトラフィック急増がありました。生成AIが情報の「入口」となりつつある今、日本企業が意識すべきマーケティングとプロダクト設計の構造変化について解説します。
Canvaの躍進を支える新たな流入経路
オンラインデザインツールを提供するCanvaが、年間収益40億ドル(約6,000億円)のマイルストーンに到達しました。この成長において特筆すべき点は、従来の検索エンジン(SEO)による流入に加え、ChatGPTやPerplexityといった「LLM(大規模言語モデル)からのリファラル(参照)トラフィック」が2桁パーセント台に達しているという事実です。
これは、ユーザーがGoogle検索で「チラシ 作成ツール」と検索する行動から、対話型AIに対して「来週のイベント用のチラシを作りたいが、何を使えばいい?」「ドラフトを作成して」と問いかける行動へとシフトし始めていることを示唆しています。LLMが単なるチャットボットではなく、具体的なアクションやツールの推奨を行う「ゲートウェイ」として機能し始めているのです。
SEOから「LLM最適化」へのパラダイムシフト
日本企業の多くは、WebマーケティングにおいてSEO(検索エンジン最適化)を最重要視してきました。しかし、Canvaの事例は、AIが推奨するツールや情報源として選ばれることの重要性が高まっていることを示しています。
LLMはユーザーの意図(インテント)を深く理解し、文脈に応じた解決策を提示します。そのため、単にキーワードを羅列したコンテンツではなく、AIが「信頼できるソリューション」として認識し、引用・推奨するためのブランド力や、AIが読み取りやすい構造化されたデータ提供が求められるようになります。これは一部でGEO(Generative Engine Optimization)とも呼ばれ始めていますが、本質的には「AIのエコシステムにいかに組み込まれるか」という競争です。
プロダクト連携とAPIエコノミーの再評価
CanvaがLLMからの流入を獲得できている背景には、OpenAIのChatGPTプラグインやGPT Storeへの早期対応など、AIプラットフォームとの積極的な連携があります。LLM側からAPIを通じてCanvaの機能を呼び出せるようにすることで、ユーザーは会話の流れの中で自然にCanvaへと誘導されます。
日本のSaaSベンダーやWebサービス事業者にとっても、これは重要な示唆を含んでいます。自社サービスを単独で完結させるのではなく、生成AIのエージェント(自律的にタスクをこなすAI)が操作可能なAPIを整備し、AIのワークフローの一部として機能させる「AIネイティブ」な設計思想への転換が必要となるでしょう。
リスクと限界:プラットフォーマーへの依存
一方で、この変化は新たなリスクも孕んでいます。検索エンジンのアルゴリズム変更と同様、あるいはそれ以上に、LLMの挙動はブラックボックスです。特定のLLMが競合サービスを優先的に推奨するようになった場合、流入が激減するリスクがあります。
また、生成AI特有の「ハルシネーション(もっともらしい嘘)」により、自社に存在しない機能を紹介されたり、誤った価格情報が提示されたりする懸念もあります。企業は、AI経由の流入に過度に依存せず、独自の顧客接点を維持しつつ、ブランドの信頼性を担保するガバナンス体制を敷く必要があります。
日本企業のAI活用への示唆
今回のCanvaの事例から、日本のビジネスリーダーやエンジニアは以下の点を考慮して戦略を立てるべきです。
- 流入経路の再定義:Webサイトへの流入元として、検索エンジンやSNSだけでなく「対話型AI」を主要チャネルとして認識し、自社サービスが主要なLLMでどのように紹介されているか(あるいはされていないか)を監査する。
- 「使われる」ためのAPI戦略:自社のプロダクトやデータを、人間だけでなくAIエージェントが利用しやすい形式(API、構造化データ)で提供できているかを見直す。これが将来的なBtoB連携の鍵となる。
- ブランドの信頼性構築:LLMは学習データに基づいて回答を生成するため、Web上での評判や正確なドキュメントの蓄積が、結果としてAIによる推奨(リコメンデーション)の精度向上につながる。
- 多角的なリスク分散:特定のAIプラットフォーム(OpenAIやGoogleなど)のみに最適化するのではなく、複数のチャネルを持ち、プラットフォーム側の仕様変更に耐えうる事業基盤を維持する。
