生成AIの進化は、テキスト生成から「行動(アクション)」へと移行しつつあります。米国デンバーで開催されたイベントでの「CoinFello」の発表を端緒に、AIがブロックチェーン上のスマートコントラクトを直接操作する「オンチェーンAIエージェント」の潮流と、それが日本企業のビジネスやガバナンスに投げかける意味について解説します。
生成AIの次のフェーズ:「自律的実行」への進化
昨今のAIトレンドにおいて最も注目されているキーワードの一つが「AIエージェント(Agentic AI)」です。これまでのChatGPTに代表されるような、人間が指示を出して回答を得る「チャットボット」形式から一歩進み、AI自身が目標を達成するために計画を立て、外部ツールを使い、タスクを完遂する自律的なシステムを指します。
今回取り上げるCoinFelloの事例は、このAIエージェントがブロックチェーンの世界(オンチェーン)に進出したことを意味します。具体的には、AIが「スマートコントラクト(あらかじめプログラムされた契約条件に基づき、自動的に取引を実行する仕組み)」と直接対話し、資金移動や契約執行を行えるようになったということです。
オンチェーンAIエージェントがもたらす変化
従来のWebアプリケーションにおけるAIエージェントは、APIを通じてフライトを予約したり、メールを送信したりすることが主眼でした。しかし、オンチェーンAIエージェントは「価値の移転」を直接扱います。
例えば、DeFi(分散型金融)市場において、AIが24時間365日、市場の歪みを検知して最適な資産運用を自動で行う、あるいはサプライチェーンにおいて納品データがブロックチェーンに記録された瞬間にAIが支払い決済を実行する、といったシナリオが現実味を帯びてきます。人間が承認ボタンを押すというボトルネックが解消され、機械間(Machine-to-Machine)での経済活動が加速する可能性があります。
日本企業が直面する「不可逆性」と「幻覚」のリスク
技術的な可能性は魅力的ですが、実務への適用、特にコンプライアンス意識の高い日本企業においては、慎重な設計が求められます。最大のリスク要因は、ブロックチェーンの「不可逆性」とAIの「ハルシネーション(もっともらしい嘘)」の組み合わせです。
ブロックチェーン上の取引は、一度実行されると取り消すことが極めて困難です。もしAIが誤った判断(ハルシネーション)に基づいて巨額の送金や契約執行を行ってしまった場合、その損失を取り戻す手段が限定されます。日本の商習慣や監査基準では、「AIが勝手にやりました」という言い訳は通用しません。誰が責任を負うのかというガバナンスの設計が、技術導入以前に大きな壁となります。
日本独自の商習慣と「Human-in-the-Loop」の重要性
日本では、稟議制度や重層的な承認プロセスが根強く残っています。これは意思決定のスピードを鈍らせる一方で、リスク管理の観点からは一定の防御壁として機能してきました。
当面の間、日本企業がこの種の技術を活用する場合、AIに全権を委任するのではなく、「Human-in-the-Loop(人間がループの中に入る)」構成が現実解となるでしょう。例えば、AIが複雑なオンチェーンデータの分析と契約案の作成までを行い、最終的な「署名(トランザクションの承認)」は人間が行う、あるいはAIが少額決済のみを担当し、一定額を超えると人間の承認を求めるといったハイブリッドな運用です。
一方で、日本が強みを持つコンテンツ産業やIP(知的財産)ビジネスにおいては、この技術が強みになる可能性があります。著作権料の分配などをスマートコントラクトとAIで自動化・最適化することで、クリエイターへの還元を透明化し、新たな収益モデルを構築できる余地があります。
日本企業のAI活用への示唆
今回のオンチェーンAIエージェントの動向から、日本のビジネスリーダーやエンジニアが得るべき示唆は以下の3点に集約されます。
- 「対話」から「代行」へのシフトに備える:AI活用の主戦場は、コンテンツ生成から業務プロセスの代行へと移っています。自社のどの業務が「自律的エージェント」によって代替可能か、再定義する必要があります。
- ガバナンスと自動化のバランス:ブロックチェーンのような「取り消せない基盤」とAIを組み合わせる際は、必ず安全装置(キルスイッチや利用限度額の設定)を組み込み、監査可能な状態を維持することが不可欠です。
- Web3×AIの交差点での新規事業:金融やIP管理など、日本企業が保有する資産と信頼性を活かせる領域で、小規模なPoC(概念実証)から、自律型経済圏の実験を始める価値は十分にあります。
