20 2月 2026, 金

AIエージェントは自ら学習しない——「スキル定義」こそが人間が担うべき新たな役割

生成AIの活用は、単なるチャットボットから、複雑なタスクを自律的に遂行する「AIエージェント」へと進化しつつあります。しかし、エージェントは魔法のように自ら仕事を覚えるわけではありません。人間が明示的に「スキル」を定義し、ツールを与えるプロセスの重要性と、日本企業が向き合うべき実務的なアプローチについて解説します。

「自律型」という言葉の誤解と現実

昨今、大規模言語モデル(LLM)の次のフェーズとして「AIエージェント」が注目を集めています。これまでのチャットボットが「質問に答える」受動的な存在だったのに対し、エージェントは「目標を与えれば、自ら計画を立ててツールを使いこなし、タスクを完遂する」能動的な存在として描かれます。

しかし、ここで実務者が陥りやすい誤解があります。「AIエージェント=放置すれば勝手に業務を学習して成長する」という幻想です。The Registerの記事が指摘するように、現段階のAIエージェントは、人間が新しいトリック(業務手順)を教え込まない限り、自らそれを習得することはありません。

例えば、PDFファイルを読み込んで特定のデータを抽出・加工する業務をAIに任せたいとします。AIが自発的に「この会社のPDFはこのライブラリで処理すべきだ」と判断するわけではありません。人間がマークダウン形式のテキスト(指示書)、実行コード、必要なライブラリ、そして参照資料といった「スキルセット」をパッケージ化し、明示的に与える必要があります。

「スキル定義」という新たなエンジニアリング

AIエージェントを実務で機能させるためには、業務を「AIが実行可能なスキル」へと翻訳する作業が不可欠です。技術的には、これを「Function Calling(関数呼び出し)」や「Tool Use(ツール利用)」と呼びます。LLM自体は計算機能や外部アクセス権限を持たないため、人間が事前に「計算機ツール」や「社内データベース検索ツール」を用意し、「どのような場合にどのツールを使うべきか」を自然言語やコードで定義しなければなりません。

これは、新入社員に業務マニュアルを渡すプロセスに似ています。しかし、人間相手なら「あとは良きに計らって」で済む部分も、AI相手では厳密な定義が求められます。「参照すべきドキュメントはどれか」「エラーが出た場合の再試行ロジックはどうするか」など、これまで人間が暗黙知として処理していた業務プロセスを、形式知(コードやプロンプト)として外部化する能力が問われています。

日本企業の強みと「マニュアル文化」の再評価

ここで、日本の商習慣や組織文化が独自の強みを発揮する可能性があります。日本企業、特に製造業や金融業などでは、業務フローが厳格に定められ、詳細なマニュアルが存在するケースが多々あります。これまでのDX(デジタルトランスフォーメーション)では、この「硬直的なマニュアル文化」がアジリティを阻害すると批判されることもありました。

しかし、AIエージェントの活用においては、この「業務の標準化・明文化」が大きな資産となります。曖昧な指示で動くことを嫌うAIにとって、高品質なマニュアル(=正確なコンテキスト)は精度の生命線だからです。既存の業務マニュアルを、人間用からAIエージェント用の「スキル定義(プロンプトとコードの組み合わせ)」へと変換・実装していく作業こそが、日本企業におけるAI活用の現実的な解となるでしょう。

ガバナンスと責任分界点の所在

一方で、AIエージェントに「スキル」を与えることは、リスク管理の観点からも重要です。AIに自律的な学習を期待しすぎると、予期せぬデータへのアクセスや、誤った判断に基づく外部システムへの書き込み(メール送信や発注など)が発生するリスクがあります。

「AIが勝手にやった」という言い訳は通用しません。どのようなスキル(権限と手順)をAIに与えたのか、その定義を行った人間の責任が問われます。特に日本国内では、著作権法や個人情報保護法、さらには業界ごとのガイドラインに準拠した運用が求められます。AIに与える「参照資料」に権利侵害コンテンツが含まれていないか、AIが実行するコードにセキュリティホールがないか、といったガバナンスは、技術部門だけでなく法務・コンプライアンス部門と連携して設計する必要があります。

日本企業のAI活用への示唆

AIエージェント時代において、日本企業は以下の3点を意識してプロジェクトを進めるべきです。

1. 「育てる」のではなく「設計する」意識を持つ
AIを「使っていれば賢くなる魔法の箱」と捉えず、「適切なスキル(ツールと手順)を実装すべきシステム」として扱ってください。業務担当者が持つ暗黙知を、エンジニアと協力して明示的な「スキル」へと落とし込むプロセスが最優先事項です。

2. 業務の「部品化」を進める
エージェントは、巨大なタスクを丸投げされるよりも、小さなタスク(PDF処理、特定データの検索、要約など)を組み合わせて実行する方が安定します。既存の業務フローを細かい単位に分解し、それぞれをAIのスキルとして定義・実装することが、結果として全体の自動化率を高めます。

3. Human-in-the-loop(人間による確認)を前提とする
AIエージェントが「スキル」を使って出した成果物は、必ず人間が検証できるプロセスを組み込んでください。特に顧客対応や対外的なアクションを伴う場合、最終承認権限は人間が保持し続ける設計が、日本の品質基準と信頼を守るために不可欠です。

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