Microsoft CopilotやGrokといった生成AIエージェントが、マルウェアの通信中継点(C2プロキシ)として悪用される可能性が研究者によって示されました。日本企業でも導入が進むこれらのツールが、従来のセキュリティ対策をすり抜ける「隠れ蓑」となるリスクについて、その仕組みと実務的な対応策を解説します。
「信頼された通信」を悪用する新たな手口
セキュリティ研究者らが明らかにしたのは、攻撃者が企業のネットワーク防御を回避するために、Microsoft CopilotやGrokといった「信頼されたAIエージェント」を悪用する手法です。通常、マルウェアは外部の攻撃者サーバー(C2サーバー)と通信して指令を受け取りますが、企業のファイアウォールやセキュリティ製品は、こうした不審な通信先をブロックすることで防御しています。
しかし、今回の手法では、マルウェアが直接攻撃者と通信するのではなく、AIエージェントに「指示」を出します。AIエージェントは正規の機能(Webブラウジングやデータ取得機能)を使って攻撃者が用意した外部ソースから情報を取得し、その結果(攻撃コードや次の指令)をマルウェアに返します。ネットワーク監視の観点からは、社員が業務でCopilotを使っているのと全く区別がつかない「正規のMicrosoftやX(旧Twitter)への通信」に見えるため、既存の境界型防御をすり抜けてしまうのです。
日本企業の盲点:ベンダーへの過度な信頼とホワイトリスト
この攻撃手法は、特に日本企業にとって厄介な問題となる可能性があります。多くの日本企業では、DX(デジタルトランスフォーメーション)や働き方改革の一環としてMicrosoft 365の導入が進んでおり、Copilotの利用も急速に拡大しています。運用効率を重視するあまり、ファイアウォールやプロキシの設定で「Microsoftのドメイン(*.microsoft.comなど)は無条件で許可する」というホワイトリスト運用を行っているケースが少なくありません。
また、Grok(X社のAI)についても注意が必要です。日本では情報収集ツールとしてX(旧Twitter)を業務ネットワークからアクセス許可している企業も多く、そこに含まれるAI機能がセキュリティホールになり得るという認識はまだ浸透していません。「大手ベンダーのツールだから安全」という従来の常識が、逆にリスクを招く状況が生まれています。
実務的な対策:ネットワーク防御から「振る舞い検知」へ
このリスクに対して、「AIの利用を禁止する」というのは現実的な解決策ではありません。競争力維持のためにAI活用は必須だからです。したがって、対策の焦点はネットワークの出口対策から、エンドポイント(端末)での監視強化へとシフトする必要があります。
具体的には、通信先ドメインだけで判断するのではなく、EDR(Endpoint Detection and Response)などを活用し、端末内で「どのプロセスがAIと通信しているか」「そのプロセスが不審な挙動(PowerShellの不正実行やファイル改変など)をしていないか」を監視する体制が求められます。また、AIへの入力(プロンプト)や出力を監視する「AIファイアウォール」や「AIゲートウェイ」といった新興ソリューションの検討も、中長期的には視野に入れるべきでしょう。
日本企業のAI活用への示唆
今回の事例は、AI活用におけるガバナンスの重要性を改めて浮き彫りにしています。
- 「信頼」の再定義:大手クラウドベンダーへの通信であっても、無条件に安全とは見なせない「ゼロトラスト」の原則をAI利用にも適用する必要があります。
- シャドーAIの可視化:Grokのような、業務外の可能性もあるプラットフォーム上のAI機能が、社内ネットワークから利用可能になっていないか、利用規約(AUP)と技術的制限の両面から棚卸しを行うことが推奨されます。
- 多層防御のアップデート:ネットワーク境界での防御に依存せず、エンドポイントセキュリティや、AI特有のリスク(プロンプトインジェクションなど)に対応した監視体制を組み合わせることで、万が一「裏口」を使われた際にも被害を最小限に抑える準備が必要です。
AIは強力な業務効率化ツールですが、同時に攻撃者にとっても便利なツールになり得ます。利便性とセキュリティのバランスを取りながら、継続的にリスクシナリオを更新していく姿勢が、AI時代のIT責任者には求められています。
