18 2月 2026, 水

生成AIの「もっともらしい嘘」を見抜く——金融データ分析の事例から学ぶ、ハルシネーション対策と実務適用の境界線

英国Yahoo Financeの記事で話題になった「ChatGPTによる誤った株式分析」を題材に、大規模言語モデル(LLM)が抱える事実性の課題について解説します。高い正確性が求められる日本企業の業務において、AIの回答をどのように扱い、リスクをコントロールすべきか、技術的背景とガバナンスの観点から紐解きます。

「自信満々に間違える」AIのリスク

英国Yahoo Financeが報じた記事によると、記者がChatGPTに対して「10年に一度の投資機会となるFTSE100(英国の代表的な株価指数)の銘柄」を尋ねたところ、AIはもっともらしい理由とともに特定の銘柄を推奨しました。しかし、その根拠として挙げられた評価指標(バリュエーション)の解釈は、NVIDIAのような高成長ハイテク株と比較しても辻褄が合わない、あるいは事実と正反対の内容を含んでいたとされています。

この事例は、生成AIを実務で利用するすべての企業にとって重要な教訓を含んでいます。それは、大規模言語モデル(LLM)は「論理的な文章を組み立てる」ことには長けていますが、「正確な事実や数値を検索・照合する」機能は(外部ツールと連携しない限り)本質的に持ち合わせていないということです。特に、株価指標のように刻一刻と変化するデータや、厳密な定義に基づく数値分析において、素のChatGPTのようなモデルは頻繁に「ハルシネーション(Hallucination:事実に基づかない情報を生成する現象)」を起こします。

なぜAIは数値を間違えるのか

LLMは巨大な知識データベースではなく、あくまで確率的に「次に来る単語」を予測するエンジンです。学習データに含まれる膨大なテキストパターンから、「株式分析の文脈ではPER(株価収益率)という言葉がよく使われる」ことは理解していても、特定の企業の「今日のPER」がいくつであるか、あるいはその数値が割安か割高かという判断基準を、常に正確に保持しているわけではありません。

日本のビジネス現場、特に金融、製造、法務といったドメインでは、わずかな数値の誤りが重大なコンプライアンス違反や意思決定ミスにつながります。「AIが言っているから正しいだろう」という過信は、稟議書や決算資料の作成において致命的なリスクとなり得ます。

信頼性を高める技術と運用:RAGの重要性

この課題を解決するために、現在多くの先進企業が取り組んでいるのが「RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)」というアーキテクチャの導入です。これは、LLMが回答を生成する前に、信頼できる外部データソース(社内規定、正確な財務データベース、最新のニュースなど)を検索し、その情報を根拠として回答させる仕組みです。

例えば、社内のマニュアルや過去のトラブル事例集をデータベース化し、RAGを通じてAIに参照させることで、「もっともらしい嘘」を減らし、根拠に基づいた回答を得ることが可能になります。しかし、RAGを用いたとしても100%の精度保証は不可能です。最終的には「Human-in-the-Loop(人間が介在するプロセス)」を維持し、専門家や担当者がAIの出力を検証するフローが不可欠です。

日本企業のAI活用への示唆

今回の事例を踏まえ、日本企業がAI活用を進める上で意識すべきポイントは以下の通りです。

  • LLMを「知識源」ではなく「推論エンジン」として使う:
    事実確認(Fact Check)をAI単体に任せるのは避けましょう。AIは、人間が用意した正確なデータを「要約・翻訳・構造化」するタスクに適しています。
  • データグラウンディング(根拠付け)の徹底:
    社内向けチャットボットなどを開発する場合は、必ずRAG等の技術を用い、回答の根拠となるドキュメントを明示させる仕様にすべきです。これにより、ユーザー(社員)は元データを確認する習慣がつきます。
  • 利用者のリテラシー教育と免責規定:
    「AIは嘘をつく可能性がある」という前提を全社員に周知徹底することが重要です。特に稟議や対外発表など、責任が伴うアウトプットにAIを利用する際のダブルチェック体制を業務フローに組み込むことが、ガバナンスの第一歩となります。

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