17 2月 2026, 火

データベース移行における「ラストワンマイル」と生成AI──AWS DMSの新機能が示唆するレガシー脱却の現実解

多くの日本企業にとって、長年運用してきた基幹システムのクラウド移行における最大の障壁は「データベースの異種間移行」でした。AWS Database Migration Service(DMS)などの移行ツールに生成AIが統合され始めた今、エンジニア不足や技術的負債といった日本の課題に対し、この技術はどう寄与するのか。実務的なメリットと、導入に際しての冷静な判断基準を解説します。

レガシーシステム移行の「2025年の崖」とデータベースの壁

日本国内の多くの企業において、経済産業省が警鐘を鳴らす「2025年の崖」問題、すなわちレガシーシステムの老朽化とブラックボックス化は依然として経営上の重要課題です。特に、Oracle DatabaseやSQL Serverといった商用データベースから、PostgreSQLやMySQL(あるいはその互換クラウドサービス)などのオープンソースベースのデータベースへの移行は、ライセンスコストの適正化やモダナイゼーションの文脈で強く推奨されています。

しかし、この「異種データベース間の移行」は、実務上極めて難易度が高いプロジェクトです。テーブル定義(スキーマ)の変換は比較的自動化が進んでいますが、システム固有のビジネスロジックが埋め込まれた「ストアドプロシージャ」や独自の関数、トリガーの変換は、従来型のルールベースのツールでは完全な自動化が困難でした。結果として、高度なスキルを持つエンジニアによる手動での書き換え作業が発生し、これが移行コストの高騰や期間遅延の主因となっていました。

AWS DMSにおけるAI活用の意義:ルールベースから文脈理解へ

今回取り上げるAWS Database Migration Service(DMS)のAI機能強化は、まさにこのボトルネックに対するアプローチです。従来の「Schema Conversion Tool(SCT)」のような静的なルールベースの変換ツールでは、Aという構文をBに置き換えることはできても、複雑なロジックの意図を汲み取ったリファクタリングは不可能でした。

ここに生成AI(LLM:大規模言語モデル)が組み込まれることで、単なる構文変換ではなく、コードの文脈を理解した上での「変換案の提示」が可能になります。例えば、移行先のデータベースエンジンでサポートされていない機能を、同等の機能を持つ別のロジックで再構築するといった作業です。さらに、移行実行時に発生したエラーログを解析し、トラブルシューティングの提案を行う機能も、運用負荷の軽減に寄与します。

これは、エンジニアの仕事を奪うものではなく、エンジニアが「ビジネスロジックの正しさ」を検証することに集中するための支援機能と捉えるべきです。

日本企業が直面するリスクと実務上の留意点

一方で、生成AIを用いたデータベース移行には、実務上注意すべきリスクも存在します。日本企業が特に意識すべきは「品質保証」と「データガバナンス」です。

第一に、生成AI特有の「ハルシネーション(もっともらしい誤り)」のリスクです。AIが生成したSQLコードやプロシージャは、一見正しく動作するように見えても、特定ののエッジケースで予期せぬ挙動をする可能性があります。日本の商習慣では、システム障害に対する許容度が極めて低いため、AIによる変換後のコードに対しては、従来以上の厳格な単体テストと結合テストが求められます。「AIがやったから大丈夫」ではなく、「AIが下書きをしたものを人間が監査する」というプロセス設計が必須です。

第二に、機密情報の取り扱いです。データベースのスキーマ情報やストアドプロシージャの中には、企業の競争力の源泉となるビジネスロジックや、稀にハードコードされた機密値が含まれている場合があります。AIサービスを利用する際は、データが学習に利用されない設定(オプトアウト)になっているか、送信されるデータ範囲が適切に制御されているかを、法務・セキュリティ部門と連携して確認する必要があります。

日本企業のAI活用への示唆

今回のAWS DMSの事例を含む、データベース移行領域でのAI活用から、日本の意思決定者やエンジニアが得るべき示唆は以下の通りです。

1. 「塩漬け」からの脱却コストの低下
技術的負債となっているレガシーシステムに対し、高度なスキルを持つ人材不足で手を付けられなかった企業にとって、AIは強力な補助輪となります。100%の自動化は不可能でも、初期変換の7〜8割をAIが担うことで、プロジェクトの採算性は大きく向上します。

2. テスト工程へのリソースシフト
AI活用によりコーディング(変換)の工数は削減されますが、その分、テストと品質保証にリソースをシフトする必要があります。特に「仕様書が存在しない古いシステム」の移行では、AIの出力を通じて現行仕様を逆解析し、テストケースを網羅的に作成する能力が問われます。

3. ベンダーロックインに対する新たな視点
データベース移行が容易になるということは、特定のベンダーやクラウドプロバイダーに縛られるリスクが低減することを意味します。AIによるポータビリティの向上は、将来的なマルチクラウド戦略や、よりコスト効率の良いインフラへの乗り換えを容易にするため、中長期的なIT戦略において重要な意味を持ちます。

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