16 2月 2026, 月

「話すAI」から「行動するAI」へ:豪小売大手Wesfarmersの事例に見るエージェンティックAIの実装と日本企業への示唆

オーストラリアの小売コングロマリットであるWesfarmersが、小売業務に「エージェンティックAI(Agentic AI)」を導入する動きを見せています。これは生成AIが単にテキストを生成する段階から、自律的にツールを使いこなし業務を遂行する段階へと進化したことを示唆しています。本稿では、このグローバルな潮流を紐解きながら、日本の商習慣やシステム環境において、企業がどのように自律型AIエージェントを活用すべきか解説します。

エージェンティックAI(Agentic AI)の台頭:指示待ちからの脱却

昨今のAIトレンドにおいて最も重要なキーワードの一つが「エージェンティックAI(Agentic AI)」、すなわち自律型AIエージェントです。従来のLLM(大規模言語モデル)活用は、人間がプロンプトを入力し、それに対してAIが回答や要約を返す「受動的」なものでした。これに対し、エージェンティックAIは、与えられた抽象的な目標(例:「在庫不足の商品を特定し、発注案を作成せよ」)を達成するために、AI自身が推論を行い、必要なステップを分解し、外部ツール(検索、データベース接続、API実行など)を自律的に呼び出してタスクを完遂しようとします。

豪州のWesfarmers(KmartやTarget、Bunningsなどを傘下に持つ小売大手)の事例は、この技術が実験室を出て、複雑な実業務の現場(オペレーション)に実装され始めたことを象徴しています。小売業において、顧客対応の自動化だけでなく、サプライチェーン管理や店舗運営の最適化において、AIが「判断」と「実行」の一部を担うようになりつつあります。

日本企業の現場における可能性:「2025年の崖」と人手不足への解

この動きは、日本の産業界にとっても極めて重要な意味を持ちます。日本は深刻な人手不足に直面しており、定型業務の効率化は待ったなしの状況です。しかし、日本の多くの企業では、いわゆる「2025年の崖」として指摘されるようなレガシーシステムが複雑に入り組んでおり、単純なAPI連携やシステム統合が困難なケースが多々あります。

エージェンティックAIは、人間がGUI(画面)を操作するように、システム間の「隙間」を埋める役割を果たす可能性があります。例えば、受注メールの内容を読み取り、在庫管理システムの画面を操作(あるいはRPAと連携)し、配送手配を行うといった一連のワークフローを、AIエージェントがオーケストレーションする未来です。これは、システム全面刷新という莫大なコストをかけずに、既存資産を生かしながら業務自動化を進める一つの解になり得ます。

実務実装におけるリスクと「人間中心」のガバナンス

一方で、エージェンティックAIの実装には、従来のチャットボットとは異なる次元のリスク管理が求められます。AIが単に誤った情報を話す(ハルシネーション)だけでなく、誤った「行動」を起こす(例:誤発注する、不適切な価格でお客様に回答する)可能性があるからです。

日本の商習慣では、ミスに対する許容度が低く、高い信頼性が求められます。したがって、いきなり全自動化を目指すのではなく、「Human-in-the-loop(人間がループの中に入る)」設計が不可欠です。AIエージェントが立案した計画やドラフトに対し、最終的な承認権限は人間が持つプロセスを組み込むこと、そしてAIの行動ログを監査可能な状態で保存することが、ガバナンスの観点から強く推奨されます。

日本企業のAI活用への示唆

今回の事例および技術トレンドを踏まえ、日本の意思決定者やエンジニアは以下の点を意識してプロジェクトを進めるべきでしょう。

  • 「チャット」から「ワークフロー」への視点転換:AIを単なる質疑応答ツールとしてではなく、業務プロセス(ワークフロー)の一部を代行する「同僚」として再定義してください。どのタスクであればAIに裁量を持たせられるか、業務の棚卸しが必要です。
  • 社内データとAPIの整備:エージェンティックAIが活躍するためには、社内システムやデータへのアクセス権限(ツールとしてのAPI)が整備されている必要があります。AI活用の前段階として、データ基盤の整備は避けて通れません。
  • 段階的な権限委譲:最初は「情報の検索・提示」のみを行わせ、次に「ドラフト作成」、信頼性が確認できたら「特定条件下での実行」というように、AIエージェントへの権限委譲は慎重かつ段階的に進めるべきです。
  • 責任分界点の明確化:AIが起こしたミスに対して、組織としてどう対応するか、法務やコンプライアンス部門を巻き込んだガイドライン策定を早期に進めてください。

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