欧州を中心に、ChatGPTなどの生成AIを医療健康分野で活用する際の規制適合性が厳しく問われ始めています。本稿では、汎用的な大規模言語モデル(LLM)が抱える臨床的な信頼性の課題を整理し、日本の薬機法や医療現場の商習慣を踏まえた、企業が取るべき実務的な対応策を解説します。
汎用AIを医療に応用する際の「適合性」への疑義
医療分野における生成AIの活用は、事務作業の効率化から、問診サポート、さらには診断支援に至るまで急速に検討が進んでいます。しかし、Medscapeなどが報じるように、欧州をはじめとする規制当局や専門家の間では、「ChatGPTなどの汎用的な生成AIプラットフォームが、臨床的な妥当性(Clinical Validation)や規制コンプライアンスの基準を満たしているか」について、強い懸念が示されています。
最大の問題点は、これらのモデルが本来、医療機器として設計・訓練されたものではないという点です。大規模言語モデル(LLM)は、確率的に「もっともらしい文章」を生成することに長けていますが、医学的な「正解」や「安全性」を保証するロジックは内包していません。いわゆるハルシネーション(もっともらしい嘘)のリスクが、患者の健康に直結する医療分野では許容されにくいという根本的な課題があります。
「医療機器」と「ヘルスケアツール」の境界線
この議論において重要なのは、そのAIが「医療機器(SaMD: Software as a Medical Device)」として振る舞うのか、単なる「健康管理ツール(Non-SaMD)」なのかという境界線です。
欧州ではEU AI法(EU AI Act)において、医療機器に関わるAIは「高リスク」に分類され、極めて厳格な品質管理システムと人による監視が義務付けられます。汎用モデルをベースにしたアプリケーションが、診断や治療方針の決定に影響を与える場合、それはもはやチャットボットではなく、臨床評価を経た医療機器としての厳格なエビデンスが求められることになります。
日本国内における法規制と開発のポイント
日本においても状況は同様です。厚生労働省やPMDA(医薬品医療機器総合機構)は、AIを活用したプログラム医療機器の審査指針を整備しつつありますが、生成AI特有の「出力の非決定性(毎回同じ答えが返ってくるとは限らない性質)」は、従来の承認プロセスと相性が悪い部分があります。
日本の実務担当者が特に注意すべきは、薬機法(医薬品医療機器等法)における「診断・治療・予防」への該当性です。例えば、生成AIを用いて「あなたの症状から〇〇という病気の可能性があります」と提示することは、医師法や薬機法に抵触するリスクが高まります。一方で、「一般的な医学情報の提供」や「生活習慣改善のアドバイス」に留めるのであれば、非医療機器としてサービス展開が可能になるケースが多く、この線引き(グレーゾーンの解消)がビジネス設計上の最大の分かれ目となります。
日本企業のAI活用への示唆
グローバルの規制動向と日本の商習慣を踏まえ、AI活用を目指す企業は以下の点に留意すべきです。
1. 利用目的の明確な切り分け
生成AIを「臨床判断の代替」として使うのか、「医療従事者の事務作業支援(要約、下書き作成)」として使うのかを明確に定義してください。現状、日本国内でリスクを抑えて早期に導入効果を出すには、後者の「業務効率化」や「患者への一般情報提供」から着手するのが現実的です。
2. Human-in-the-Loop(人間による確認)の徹底
AIの出力をそのまま患者や利用者に提示するのではなく、必ず医師や専門家が確認するフローを業務プロセスに組み込むことが、ガバナンス上必須です。利用規約やUIにおいても、「AIの回答は参考情報であり、最終的な判断は医師に仰ぐこと」を明記し、誤認を防ぐ設計が求められます。
3. 参照元の明示とグラウンディング
汎用モデルの知識だけに頼らず、信頼できる医学ガイドラインや添付文書などの外部データを検索して回答を生成するRAG(検索拡張生成)技術を活用し、回答の根拠を明示できるシステム構成にすることで、ハルシネーションのリスクを低減させるアプローチが有効です。
