13 2月 2026, 金

「ChatGPTより検索数が多い」Pinterestの主張から読み解く、生成AIと購買行動の現在地

PinterestのCEOが、同プラットフォームの検索数がChatGPTを上回っており、かつその過半数が「商業的な意図」を持つものだと発言しました。生成AIブームの中で見落とされがちな「検索意図」の違いと、企業がAIをプロダクトに組み込む際に考慮すべきUX(ユーザー体験)の設計について解説します。

生成AIは「万能の売り手」ではない

PinterestのCEO、ビル・レディ(Bill Ready)氏による最近の発言は、生成AIの活用に躍起になる多くの企業にとって冷静な視点を提供するものです。彼は、Pinterest上での検索数がChatGPTを上回っていると主張した上で、さらに重要な点として「Pinterestの検索の半数以上が商業的な性質(Commercial in nature)のものであるのに対し、ChatGPTにおけるそれは約2%に過ぎない」という見解を示しました。

この数字の正確性については議論の余地があるかもしれませんが、ここで重要なのは具体的な数値そのものではなく、ユーザーが「どのプラットフォームで、何を目的に検索しているか」という根本的な行動様式の違いです。

「タスク解決」と「発見・購買」の分離

現在、ChatGPTをはじめとするLLM(大規模言語モデル)ベースのチャットボットは、コード生成、文章要約、アイデア出しといった「タスク解決型」の検索において圧倒的な強さを発揮しています。これらは業務効率化や生産性向上に直結するため、企業の社内導入が進むのは自然な流れです。

一方で、消費者が「新しい家具が欲しい」「週末のコーディネートを決めたい」といった「発見・購買」を目的とする場合、テキストベースの対話よりも、PinterestやInstagram、あるいはAmazonのような「ビジュアル探索型」や「カタログ型」のインターフェースが依然として優位性を持っています。日本の消費者行動を見ても、ECサイトでの購買決定プロセスにおいて、テキストの説明よりも画像や動画、あるいは「なんとなく眺めているとき」のセレンディピティ(偶然の出会い)が重要視される傾向があります。

日本企業が陥りがちな「チャットボットの罠」

日本国内でも「自社サイトにAIチャットボットを導入すれば、コンバージョン(成約率)が上がるはずだ」という仮説のもと、RAG(検索拡張生成)を用いた対話型インターフェースの実装が急増しています。

しかし、Pinterestの事例が示唆するのは、「ユーザーは必ずしも対話を求めているわけではない」という事実です。特にアパレル、インテリア、食品、観光といった視覚情報や情緒的価値が重視される領域では、高精度なLLMによるテキスト回答よりも、従来のレコメンデーションエンジンや画像認識AIを磨き込み、ユーザーの好みを「言わずとも察する」体験の方が、購買行動に結びつきやすい場合があります。

LLMはあくまでツールの一つであり、すべてのユーザーインターフェースをチャット化することが正解ではありません。「商業的な意図」を持つユーザーに対しては、対話の負担を強いるよりも、直感的なナビゲーションを提供する方が適しているケースが多いのです。

AI活用のハイブリッド化が進む

もちろん、これはPinterestがAIを使っていないという意味ではありません。彼らはむしろ、コンピュータビジョン(画像認識)やディープラーニングを用いた高度なマッチングアルゴリズムに投資しています。今後のトレンドは、対話型AIと探索型AIのハイブリッドになるでしょう。

例えば、最初は「春っぽい服」という曖昧な言葉(LLMの得意領域)で検索し、提示された画像の中から好みのものをタップしていくと、類似画像検索(従来のMLの得意領域)で絞り込まれていく、といった体験です。GoogleもGeminiを検索に統合し始めていますが、最終的にユーザーを購買させるには、情報の羅列ではなく「欲しい」と思わせるコンテキストの提示が不可欠です。

日本企業のAI活用への示唆

今回のPinterestの主張と市場の動向を踏まえ、日本の意思決定者やプロダクト担当者は以下の視点を持つべきです。

  • 目的と手段の再定義:「生成AIを導入すること」を目的にせず、ユーザーの課題が「情報の要約(タスク)」なのか「商品の発見(探索)」なのかを見極める必要があります。探索フェーズでは、チャットUIが逆にユーザーの離脱を招くリスクも考慮すべきです。
  • ビジュアルとコンテキストの重視:日本の消費者は文脈(コンテキスト)や視覚情報を重視します。ECやBtoCサービスにおいては、テキスト生成能力だけでなく、画像生成や画像解析、レコメンデーション技術を組み合わせた「マルチモーダル」な体験設計が競争力の源泉となります。
  • 「商業的意図」データの価値:ChatGPTへの検索の多くが非商業的であるならば、自社プラットフォーム内に蓄積される「ユーザーが何を買おうとしているか」という行動データは、LLMプロバイダーが持っていない極めて貴重な資産です。安易に外部のAIにデータを渡すのではなく、この「意図データ」を自社の競争優位としてどう活用・保護するかというガバナンス戦略が求められます。

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