12 2月 2026, 木

検索から「実行」へ:GoogleのAgentic AI連携が示唆するEコマースの地殻変動

GoogleがEtsyやWayfairの商品をAI検索(Gemini)上で直接購入可能にする機能を発表しました。これは単なる機能追加ではなく、AIが情報の提示にとどまらず「タスクの実行」までを担う「Agentic AI(エージェントAI)」時代の本格的な到来を意味します。本記事では、この動きが日本のEC事業者やプロダクト開発者にとって何を意味するのか、UXの変革、プラットフォーム戦略、そしてリスク管理の観点から解説します。

「Agentic AI」による購買体験のショートカット

Googleの発表によれば、米国のユーザーは「AI Mode」や「Gemini」との対話を通じて、Etsy(ハンドメイド・ビンテージ品市場)やWayfair(家具・家庭用品)の商品を検索結果から直接購入できるようになります。これは、従来の「検索 → リンクをクリック → ECサイトへ遷移 → 商品選定 → 購入」というプロセスを劇的に短縮するものです。

ここで注目すべきは、生成AIが単なるチャットボットから、ユーザーの代わりに具体的なアクションを起こす「Agentic AI(エージェントAI)」へと進化している点です。ユーザーの曖昧な要望(例:「北欧風のリビングに合う300ドル以下の青いラグを探して」)をAIが解釈し、条件に合う商品を提示し、決済まで誘導する。この一連の流れが検索プラットフォーム上で完結することは、ユーザーにとっては利便性の向上ですが、企業にとっては「自社サイトへの流入機会の喪失」という諸刃の剣にもなり得ます。

SEOから「AIO」へのパラダイムシフト

これまで日本の多くの企業は、SEO(検索エンジン最適化)にリソースを割き、Google検索からのトラフィックを自社サイト(LP)に流すことを主眼としてきました。しかし、今回の事例が示すのは、AIが情報のゲートキーパーとなるだけでなく、購買のインターフェースそのものになる未来です。

今後重要になるのは、人間が読むためのWebサイトの装飾ではなく、AIが正確に理解・処理できるための構造化データの整備や、APIによる在庫・価格情報のリアルタイム連携です。これを「AIO(AI Optimization:AI最適化)」と呼ぶ動きもありますが、AIエージェントに対して自社商品を「選ばれる選択肢」として正しく認識させる技術的な対応が、今後の競争優位を左右することになるでしょう。

ブランド体験とプラットフォーム依存のリスク

EtsyやWayfairのような大手プラットフォーマーにとっては、Googleという巨大な入口と連携することで販売機会が増えるメリットがあります。しかし、個別のブランドやメーカーにとっては、顧客接点がAIに抽象化されるリスクも孕んでいます。

日本には「おもてなし」の精神に基づく丁寧な接客や、ブランド独自の世界観を大切にする商習慣があります。AIエージェント経由の購買では、こうしたブランドストーリーや付帯サービス(詳細な梱包オプションやアフターケアの説明など)が省略され、価格とスペックだけの比較競争に陥る可能性があります。自社サイトでしか提供できない「体験価値」をどう定義し直すかが、マーケティング責任者の急務となります。

ガバナンスと信頼性の課題

AIエージェントによる購買代行には、特有のリスクも存在します。「AIハルシネーション(もっともらしい嘘)」により、AIがユーザーの意図と異なる商品(サイズ違いや色違い、あるいは互換性のない部品など)を注文してしまった場合、その責任は誰が負うのでしょうか。プラットフォーム側か、商品データを提供した小売側か、あるいは確認を怠ったユーザーか。

日本企業が同様の機能を実装、あるいは提携を検討する場合、消費者契約法やPL法(製造物責任法)の観点から、AIの誤作動や誤案内に対する免責事項や補償プロセスを明確に定義する必要があります。また、MLOpsの観点からは、商品データベースとLLMの連携において、情報の鮮度と正確性を担保するパイプラインの構築が、これまで以上にクリティカルな要件となります。

日本企業のAI活用への示唆

今回のGoogleの動きは、海外の事例として片付けるのではなく、近い将来日本市場でも起こりうる変化として捉えるべきです。意思決定者や実務担当者は以下の点に着目して準備を進めることを推奨します。

  • 構造化データとAPIエコノミーへの適応: 自社の商品・サービス情報が、AIエージェントにとって「読みやすく、使いやすい」状態になっているか再点検する。Schema.orgなどの標準規格への準拠は必須条件となる。
  • 「指名検索」されるブランド力の強化: AIが商品を推奨する際、一般名称(「安い椅子」)ではなく、指名(「〇〇社の椅子」)で選ばれるようなブランド構築が、AIのフィルタリングを回避する唯一の手段となる。
  • 「検索外」の顧客接点の構築: GoogleやOpenAIなどのプラットフォームに依存しない、自社アプリやメルマガ、LINE公式アカウントなど、直接的な顧客リレーション(CRM)の重要性が相対的に高まる。
  • リスク許容度の設定: AIによる自動化を進める際、どの程度までAIに裁量を持たせるか(推薦までか、決済までか)を、自社のコンプライアンス基準と照らし合わせて慎重に設計する。

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