11 2月 2026, 水

金融・税務領域におけるAI活用の最前線:米Altruist社の事例から見る「専門家支援」のあり方

米国のカストディアン・プラットフォームAltruistが、同社のAIアシスタント「Hazel」にタックス・プランニング機能を追加しました。専門性の高い金融・税務領域において、AIは人間の専門家をどのように支援できるのでしょうか。本記事では、この最新事例をもとに、日本企業が高度な専門業務にAIを導入する際のポイントや、独自の法規制・商習慣を踏まえたリスク対応の勘所を解説します。

Altruist「Hazel AI」の機能拡張が示唆するもの

米国の資産管理(カストディアン)プラットフォームを提供するAltruist社は、ファイナンシャル・アドバイザー向けのAIアシスタント「Hazel AI」に、新たにタックス・プランニング(税務計画)機能を追加しました。このアップデートの核心は、これまでアドバイザーが手作業で行っていたポートフォリオの税務分析や、顧客への説明資料作成、関連ドキュメントの記録といった「定型だが専門知識を要する業務」をソフトウェアにオフロード(委譲)できる点にあります。

生成AIやLLM(大規模言語モデル)の進化により、単なる数値計算だけでなく、その計算結果に基づいた「文脈の説明」や「提案理由の言語化」が可能になりました。Altruistの事例は、AIが金融・税務というミスが許されない領域においても、実務的な業務支援ツールとして浸透し始めていることを示しています。

専門業務における「コパイロット」の真価

日本の金融機関や士業(税理士・会計士など)の現場においても、顧客一人ひとりに合わせた提案書作成や、法改正に伴う確認作業は大きな負担となっています。ここでのAI活用の本質は、専門家を「代替」することではなく、専門家の判断材料を整える「コパイロット(副操縦士)」としての役割にあります。

例えば、複雑な税制を踏まえた資産配分のシミュレーションを行い、その結果をもとに顧客向けの説明文章のドラフト(下書き)をAIが生成します。アドバイザーは、ゼロから文章を書くのではなく、AIが作成したドラフトを精査・修正し、最終的な判断を下すプロセスに注力できます。これにより、付加価値の低い事務作業時間を圧縮し、顧客との対話や高度なコンサルティングに時間を割くことが可能になります。

日本国内での適用と法的・実務的ハードル

このモデルを日本国内で展開する場合、技術的な課題以上に「法規制」と「責任分界点」の明確化が重要になります。日本では、税理士法により具体的な税務相談は税理士の独占業務とされています。したがって、AIが自動的に「あなたの税金はこうなります」と確定的なアドバイスを行うような設計は、法令違反となるリスクが高いと言えます。

また、金融商品取引法における適合性の原則や説明義務の観点からも、AIが出力した内容をそのまま顧客に提示することはリスクを伴います。いわゆる「ハルシネーション(AIがもっともらしい嘘をつく現象)」により、誤った税務知識や数値を根拠に提案を行えば、企業としての信頼失墜や損害賠償責任に直結します。

したがって、日本企業がこの種のAI機能を実装・活用する際には、以下の対策が不可欠です。
第一に、AIの役割をあくまで「専門家の社内用支援ツール」に限定し、エンドユーザー(顧客)に直接AIの回答を提示しないフローにすること。
第二に、RAG(検索拡張生成)等の技術を用い、参照すべき最新の税制や社内規定を正確にAIに読み込ませ、回答の根拠を明示させること。
第三に、最終的な成果物に対する責任は人間(アドバイザー)が負うことを、組織のガバナンスとして徹底することです。

日本企業のAI活用への示唆

今回の事例から、日本企業が専門領域でAI活用を進めるための要点は以下の通りです。

1. 「判断」と「作業」の分離
AIに最終判断(税務判断や投資推奨)を委ねるのではなく、判断に必要な情報の整理、比較、文書の下書き作成といった「高度な知的作業」を任せる設計に注力すべきです。

2. 規制対応を前提としたUX設計
日本の税理士法や弁護士法などの「独占業務」規制をクリアするため、AIはあくまで補助者であり、有資格者が最終チェックを行うプロセス(Human-in-the-loop)をワークフローに組み込む必要があります。

3. 説明責任の強化ツールとしての活用
AI活用のメリットは効率化だけではありません。なぜその提案をしたのかという分析プロセスをAIに記録・文書化させることで、金融庁などが求める「顧客本位の業務運営」における透明性確保や、コンプライアンス対応の強化にも繋がります。

総じて、専門領域におけるAI活用は、技術導入そのものよりも、既存の業務フローと法規制の中にどうAIを位置づけるかという「業務設計」の巧拙が成功の鍵を握っています。

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