10 2月 2026, 火

生成AIの「ガードレール」は万能ではない:Google Geminiとディズニーの事例から学ぶ、企業が直面する知財リスクと対策

Googleの生成AI「Gemini」において、ディズニー関連のコンテンツ生成を制限する措置が講じられているものの、一部のテストでは依然として生成が可能であることが明らかになりました。この事例は、AIモデルに組み込まれた安全性フィルター(ガードレール)が決して完全ではないことを示唆しています。AI活用を進める日本企業にとって、プラットフォーム側の対策に依存しきらないガバナンスとリスク管理がいかに重要か、実務的な観点から解説します。

意図した制限と「抜け穴」の現実

GoogleのGeminiのような主要な生成AIモデルは、著作権侵害や不適切なコンテンツの生成を防ぐため、「ガードレール」と呼ばれる安全機構を備えています。今回の事例では、ディズニーのキャラクターや関連する画像生成をブロックするよう調整が行われていますが、ユーザーが入力するプロンプト(指示文)の工夫次第では、依然としてディズニーに関連する画像が生成されてしまうことが確認されました。

これは、AI開発ベンダー側が特定のキーワードや概念をブロックリストに追加しても、AIモデルが持つ膨大な学習データと文脈理解能力によって、間接的な表現から対象を推論し、出力を生成できてしまう「漏れ」が生じることを意味しています。企業の実務担当者は、「大手ベンダーのAIだから著作権対策は完璧である」という前提は危険であることをまず認識する必要があります。

技術的背景:なぜフィルタリングはすり抜けられるのか

生成AI、特に大規模言語モデル(LLM)や画像生成モデルは、確率論に基づいて出力を決定します。従来のITシステムのような「If-Thenルール(もしこうなら、こうする)」による完全な制御は極めて困難です。これを「確率的挙動」と呼びます。

例えば、「ミッキーマウス」という単語を禁止しても、「赤いズボンと黄色い靴を履いた、耳の丸い有名なネズミのキャラクター」という記述から、モデルはその特徴を再現できてしまう場合があります。これを防ぐためにベンダー側も「敵対的テスト(レッドチーミング)」を行っていますが、ユーザー側の入力パターンは無限であり、すべての回避策を事前に封じることは技術的に限界があります。

日本企業における法的リスクと商習慣

日本の著作権法において、AI生成物が著作権侵害となるかどうかの判断基準には、主に「類似性(似ているか)」と「依拠性(既存の著作物に依拠して作成されたか)」の2点があります。今回のように、プロンプトで特定のキャラクターを意図して生成させた場合、「依拠性」が認められる可能性が高くなります。

日本企業、特にコンプライアンスを重視する組織において最大のリスクは、従業員が「AIが出してくれたから大丈夫だろう」と誤認し、生成された知的財産権(IP)侵害画像を自社の広告や資料に使用してしまうことです。日本では一度の不祥事がブランド毀損に直結しやすく、取引停止などの深刻なビジネスリスクを招きます。プラットフォーム側で生成できたという事実は、法的な安全性を保証するものではありません。

日本企業のAI活用への示唆

今回のGeminiとディズニーの事例は、日本企業が生成AIを業務に組み込む際、以下の3点を徹底すべきであることを示唆しています。

  • プラットフォーム依存からの脱却: AIモデル標準のガードレールはあくまで「最後の砦」ではなく「最初の防壁」に過ぎません。企業側で、入力データや出力結果を監視する独自のフィルタリング層や運用ルールを設ける必要があります。
  • Human-in-the-Loop(人間による確認)の必須化: 特に外部に公開するクリエイティブや重要文書については、必ず人間が最終確認を行い、他者の知的財産権を侵害していないかチェックするプロセスを業務フローに組み込むべきです。AIによる完全自動化は、現時点ではリスクが高いと言えます。
  • 従業員リテラシー教育の徹底: 「生成できた=使って良い」ではないことを現場に周知する必要があります。特に、「有名なキャラクター風の画像」を安易に生成・利用することのリスクについて、具体的なガイドラインを策定し、教育することがガバナンスの第一歩です。

AIは強力なツールですが、その制御には限界があります。技術の不確実性を理解した上で、法務・知財部門と連携した堅実な運用体制を構築することが、日本企業がAIの恩恵を安全に享受するための鍵となります。

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