生成AIは単なる文章作成ツールから、複雑な情報を整理・調査する「リサーチアシスタント」へと役割を広げています。米Business Insiderの記事では、複雑なニューヨーク市の賃貸事情を調査する過程で、主要なAIモデル間の「根拠の提示能力」に差が出たことが報告されています。本稿ではこの事例を端緒に、日本企業がAIを調査・検索業務に活用する際のツール選定基準や、ハルシネーション(嘘)リスクへの現実的な向き合い方について解説します。
複雑な法的情報の検索で浮き彫りになるAIの特性
Business Insiderの記事では、ニューヨーク市の複雑な「家賃安定化規制(rent stabilization)」に関する情報を収集するために、ChatGPT、GoogleのGemini、そしてPerplexityの3つを比較検証しています。このトピックは非常にニッチでありながら、正確な法的解釈と最新のデータが求められる領域です。
検証の結果、GeminiとPerplexityは、回答の根拠となる情報源(ソース)を明確に示す点で、ChatGPTよりも優れていたと評価されています。特にPerplexityは「検索エンジン」としての性質が強く、ユーザーが事実確認(ファクトチェック)を行うためのリンクを即座に提示するUI設計になっています。一方で、ChatGPT(特にブラウジング機能を使用しない純粋なGPT-4モデルなどの場合)は、流暢な文章を生成するものの、その情報がどこから来たのかが不透明になりがちであるという課題が指摘されました。
「ソースの明示」がビジネス利用の生命線
この事例は、日本のビジネス現場においても極めて重要な示唆を含んでいます。日本企業、特にコンプライアンスを重視する組織において、生成AIの最大の懸念点は「ハルシネーション(もっともらしい嘘)」です。
ビジネスにおける調査業務——例えば、競合他社の動向調査、新しい法規制の確認、技術論文のサーベイなど——では、「何と答えたか」以上に「その根拠は何か」が重要視されます。専門用語で「グラウンディング(Grounding)」と呼ばれる、回答を事実や外部データに基づかせる能力において、AIモデルやツールの設計思想には明確な違いがあります。
- Perplexity:検索結果の要約とソース提示に特化しており、初期リサーチに向いています。
- Gemini:Googleのエコシステムと連携し、検索と生成のバランスを取ろうとしています。最新情報の反映が早いです。
- ChatGPT:論理的推論やコード生成、長文作成に強みがありますが、事実確認にはWebブラウジング機能の併用や、特定のドキュメントを読み込ませるRAG(検索拡張生成)の構築がカギとなります。
日本の法規制・商習慣における注意点
日本国内でこれらのツールを実務に組み込む場合、精度の問題とは別に、法的なリスク管理も必要です。
まず、著作権法第30条の4の存在により、日本はAI学習に対して比較的寛容な法制度を持っていますが、出力結果をそのままビジネスで利用(公表・販売など)する場合は、既存の著作権を侵害していないか確認する責任がユーザー側に発生します。ソースが明示されるツールは、元記事を確認しやすく、意図せず著作権侵害を行うリスクを低減できるメリットがあります。
また、機密情報の取り扱いも重要です。無料版のツールや、学習データへの利用を拒否(オプトアウト)していない設定で、社外秘の契約内容や未公開の製品情報を入力することは情報漏洩につながります。企業向けのエンタープライズプランを契約し、入力データが学習に使われない環境を整備することは、ツール選定以前の前提条件と言えます。
日本企業のAI活用への示唆
今回の比較検証を踏まえ、日本の意思決定者や実務担当者は以下の点を考慮してAI活用を進めるべきです。
1. 用途に応じたツールの使い分け(適材適所)
「ChatGPTですべてを解決する」のではなく、業務プロセスごとにツールを使い分ける柔軟性が求められます。信頼できるソース付きの初期調査にはPerplexityやGeminiを用い、得られた情報の論理的な整理やドラフト作成にはChatGPTを用いるといった「ハイブリッド運用」が、現時点での現実解です。
2. 「Human in the Loop」による品質保証
AIがソースを提示したとしても、そのソース自体が誤っている可能性や、AIがソースの内容を誤読している可能性はゼロではありません。特に日本の商習慣では、最終的な成果物に対する責任は人間が負います。「AIがこう言ったから」は通用しないため、必ず人間が一次情報を確認するプロセス(Human in the Loop)を業務フローに組み込む必要があります。
3. 社内ナレッジベースとの連携(RAGの活用)
Web上の一般情報だけでなく、社内規定や過去のプロジェクト資料に基づいた回答が必要な場合は、汎用的なAIツールではなく、社内データを検索対象としたRAG(Retrieval-Augmented Generation)システムの構築を検討すべきです。これにより、ハルシネーションを抑制しつつ、自社の文脈に沿った回答を得ることが可能になります。
