6 2月 2026, 金

LLMの次は「LTM」か?構造化データ特化型AIが日本企業のデータ資産を覚醒させる

生成AIブームの中心であった大規模言語モデル(LLM)に対し、いま新たな潮流として「LTM(Large Tabular Model:大規模表形式モデル)」が注目を集めています。スタートアップのFundamentalが2億2500万ドルの巨額調達を行ったニュースを皮切りに、LLMが苦手としていた「構造化データ」の活用における新たな可能性と、日本企業が向き合うべきデータ戦略について解説します。

LLMが苦手とする「構造化データ」の領域

昨今のAIブームは、OpenAIのGPTシリーズに代表される「大規模言語モデル(LLM)」によって牽引されてきました。これらはテキスト、画像、プログラムコードといった「非構造化データ」の処理において革命的な能力を発揮しています。しかし、企業の実務において、LLMには明確な弱点が存在しました。それは、データベース、スプレッドシート、CSVファイルなどに代表される「構造化データ」の扱いです。

LLMは確率的に「次の単語」を予測する仕組みであるため、厳密な数値計算や、複雑な相関関係を持つ表形式データの分析においては、しばしば「ハルシネーション(もっともらしい嘘)」を起こしたり、論理的な誤りを犯したりするリスクがありました。企業の基幹システム(ERP)や顧客管理システム(CRM)に蓄積されたデータの多くは構造化データであり、ここを直接的に、かつ高精度に扱えるAIモデルへのニーズは依然として満たされていなかったのです。

LTM(Large Tabular Model)とは何か

こうした背景の中で注目されているのが、今回の元記事でも触れられている「LTM(Large Tabular Model)」という概念です。最近、2億2500万ドル(約300億円規模)の資金調達を完了したFundamental社などが開発を進めるこの技術は、テキストではなく、テーブル(表)形式のデータを学習・処理することに特化しています。

LTMは、これまでの機械学習(決定木や回帰分析など)が担ってきた予測・分類タスクを、より大規模かつ汎用的なアプローチで解決しようとするものです。LLMがインターネット上の膨大なテキストを学習して「言語のパターン」を理解したように、LTMは膨大な数の企業データや公共データのテーブルを学習し、「データの相関やパターン」を理解します。これにより、事前の手厚いデータ加工(特徴量エンジニアリング)を大幅に削減しつつ、高精度な需要予測、不正検知、解約予測などが可能になると期待されています。

日本企業の現場におけるLTMの可能性

日本企業にとって、LTMはLLM以上に親和性が高い可能性があります。なぜなら、日本のビジネス現場は「Excel文化」と形容されるように、業務の多くが表形式のデータで管理されているからです。

例えば、製造業における生産管理データ、小売業のPOSデータ、金融機関のトランザクションデータなど、日本企業は質の高い構造化データを大量に保有しています。これまでは、それらのデータをAIで活用するために、データサイエンティストが長い時間をかけてデータのクレンジング(整形)を行う必要がありました。LTMが実用化されれば、こうした「埋蔵データ」をよりダイレクトにビジネス価値(予測や最適化)へと変換できる可能性があります。

一方で、リスクや課題も存在します。日本企業のデータは「神エクセル」と呼ばれるような、人間には見やすくても機械判読が困難な形式で保存されているケースが多々あります。また、部署ごとにデータがサイロ化(孤立)しており、統合的な学習が難しいという組織的な課題もあります。LTMは魔法の杖ではなく、あくまで入力されたデータの質に依存するため、ガバナンスの効いたデータ管理が前提となる点は従来と変わりません。

日本企業のAI活用への示唆

今回のLTMの台頭は、日本企業のAI戦略に以下の重要な視点を提供しています。

1. 「チャットボット」以外のAI活用への回帰
生成AI=チャットボット(対話型AI)という認識から一歩進み、自社のコア競争力である「数値データ・実績データ」をどう活かすかという視点を持つべきです。LTMのような技術は、業務効率化だけでなく、経営の意思決定精度を直接高めるツールになり得ます。

2. データマネジメント基盤の整備が急務
LLMであれLTMであれ、活用するには「きれいなデータ」が必要です。特にLTMの活用を見据えるならば、属人化したExcel管理から脱却し、データベースとして利用可能な形式でデータを蓄積する文化(データガバナンス)を組織全体で醸成する必要があります。

3. 適材適所のハイブリッド戦略
すべてを一つのAIモデルで解決しようとせず、顧客対応や文書作成にはLLMを、数値予測やリスク分析にはLTMや従来の機械学習モデルを、といった使い分け(オーケストレーション)が今後のシステム設計の鍵となります。

AI技術は日々進化していますが、「自社の課題は何か」そして「自社にはどのようなデータがあるか」という原点に立ち返ることが、流行に流されない堅実なDX(デジタルトランスフォーメーション)への第一歩となります。

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