Googleの親会社Alphabetの決算発表(Q4 2025)において、2026年の設備投資(Capex)を倍増させる計画や、AIとSaaS市場の関係性に対するCEOの見解が明らかになりました。この動きは、生成AIが単なるブームを超え、産業インフラとして定着しつつあることを示しています。本稿では、Googleの戦略から読み解くグローバルなAIトレンドと、日本の実務者が備えるべきリスクと機会について解説します。
止まらないインフラ投資:2026年のCapex倍増が意味するもの
Googleの決算発表で最も注目すべき点は、2026年に向けた設備投資(Capex)を「ほぼ倍増」させるという強気な計画です。これは、データセンター、TPU(Google独自のAI処理チップ)、そして電力インフラへの莫大な投資を意味します。ここから読み取れるメッセージは明確です。「AIモデルの性能競争と普及は、まだ序章に過ぎない」ということです。
日本企業にとって、このインフラ投資競争は二つの側面を持ちます。第一に、「計算資源の安定供給」というメリットです。日本国内のデータセンター拡充も含まれるため、低遅延かつ高セキュリティな環境でGeminiなどのLLM(大規模言語モデル)を利用できる可能性が高まります。一方で、第二の側面として「ビッグテックへの依存度深化」というリスクがあります。AIインフラがGoogleやMicrosoftなどのハイパースケーラーに集中することで、将来的な利用料の価格決定権を握られる「ベンダーロックイン」のリスクは、これまで以上に意識する必要があります。
「SaaSの淘汰」とAIエージェントの台頭
決算説明会では、昨今のSaaS関連株の低迷(SaaS stock wipeout)についても言及されました。これは、従来型の「Sツールを導入して人が操作する」モデルから、AIが自律的にタスクをこなす「エージェント型」へのシフトを市場が予測しているためです。
日本のDX(デジタルトランスフォーメーション)は、多くの場合、紙業務をSaaSに置き換える形で行われてきました。しかし、Googleが描く未来、そしてグローバルの潮流は、「SaaSを使うAI」へと移っています。例えば、経費精算や日程調整といった業務において、人がSaaSの画面を開くのではなく、AIエージェントが裏側でAPIを通じて処理を完結させる世界です。
日本企業の実務者への示唆としては、単にSaaSを導入するだけでなく、「そのSaaSはAIエージェントと連携しやすいか(APIが充実しているか)」や「AI機能がネイティブに組み込まれているか」を選定基準に加える必要があります。単機能のSaaSは今後、プラットフォーム化されたAIエコシステム(Google WorkspaceとGeminiの統合など)に飲み込まれていく可能性があります。
Geminiの浸透と日本独自の「現場」ニーズ
Geminiのサブスクリプション数が順調に伸びている背景には、Google Workspaceとの深い統合があります。日本企業においては、メール、ドキュメント、スプレッドシートが業務の中心です。ここにAIが自然に組み込まれることは、専用のチャットツールを立ち上げる手間を省き、現場レベルでのAI活用(「民主化」)を加速させます。
ただし、リスクもあります。Googleのエコシステムにデータを預けることになるため、「AIガバナンス」の重要性が増します。機密情報がモデルの学習に使われない設定になっているか、アクセス権限の管理は適切かといった基本的な衛生管理(Cyber Hygiene)が、AI導入の前提条件となります。特に日本の商習慣では、取引先との秘密保持契約(NDA)が厳格であるため、エンタープライズ版の契約内容やデータの取り扱いポリシーを法務部門と連携して精査することが不可欠です。
日本企業のAI活用への示唆
今回のGoogleの発表を踏まえ、日本の意思決定者やエンジニアが考慮すべきポイントを整理します。
1. インフラ依存のリスクヘッジとマルチモデル戦略
Googleのインフラ増強は魅力的ですが、特定のプロバイダーに過度に依存しないよう、適材適所で他社LLMやオンプレミス(自社運用)の小規模モデルを組み合わせる「マルチモデル戦略」を検討の視野に入れておくべきです。
2. 「人手不足」対策としてのエージェント活用
日本の労働人口減少に対する切り札は、単なる業務効率化ツールではなく、業務を代行する「AIエージェント」です。Googleが示唆するSaaSの変容を先取りし、定型業務をAIに自律的に処理させるワークフローの再設計(BPR)に着手する好機です。
3. ガバナンスとコストのバランス(FinOps)
AIインフラへの投資コストは最終的にユーザー企業への価格転嫁として現れる可能性があります。開発・運用段階でのコスト管理(FinOps)を徹底し、漫然とAIを使うのではなく、「どの業務にAIを使えばROI(投資対効果)が出るのか」をシビアに見極める姿勢が求められます。
