5 2月 2026, 木

AIハードウェアの多様化:GSI Technology決算に見る「インメモリ・コンピューティング」と高速検索の可能性

GSI Technology社の決算発表において「Gemini-II」の売上伸長が報告されましたが、これはGoogleの生成AIモデルのことではありません。検索処理に特化した演算プロセッサ(APU)の需要増は、AIインフラが「GPU一強」から、用途に応じた「適材適所」へとシフトしつつある現状を示唆しています。日本企業が注目すべきハードウェアの多様化と、その実務的意義について解説します。

「もうひとつのGemini」が示すAIハードウェアの潮流

米GSI Technology社が発表した2026年度第3四半期の決算において、損失の縮小と収益の増加が報告されました。この好調を牽引した要因として挙げられているのが、同社の主力製品である「Gemini-II」です。

まず誤解のないように強調しておきますが、ここで言及されている「Gemini-II」は、Googleが提供する生成AIモデル(LLM)のことではありません。GSI Technologyが開発する「APU(Associative Processing Unit)」と呼ばれる、メモリ内演算(インメモリ・コンピューティング)に特化したハードウェアアクセラレータの名称です。

現在、生成AIブームの中心にはNVIDIAのGPUが存在しますが、GPUは汎用的な並列計算に優れる反面、膨大なデータをメモリとプロセッサ間で行き来させる際のボトルネック(いわゆる「メモリの壁」)や、それに伴う消費電力の増大が課題となっています。GSI TechnologyのGeminiシリーズは、データを移動させずにメモリ上で直接演算を行うことで、特定のタスク、特に「類似検索」や「ベクトル検索」において圧倒的なパフォーマンスと省電力性を発揮することを目指した製品です。

RAG(検索拡張生成)の実装と高速検索ニーズの高まり

なぜ今、こうしたニッチなハードウェアが注目されるのでしょうか。背景には、日本企業でも急速に進むRAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)の実装ニーズがあります。

企業独自のデータをLLMに参照させて回答精度を高めるRAGにおいては、膨大な社内ドキュメントの中から「質問に関連する情報」を瞬時に見つけ出す「ベクトル検索」のプロセスが不可欠です。データ量が増えれば増えるほど、従来のCPUや汎用GPUによる検索処理ではレイテンシ(遅延)が大きくなり、ユーザー体験を損なう可能性があります。

APUのような特化型ハードウェアは、こうした大規模なベクトル検索処理において、GPUと比較して低遅延かつ低消費電力で稼働する可能性があります。日本の商習慣においては、正確性を重視するために膨大なマニュアルや過去の議事録を参照させるケースが多く、検索フェーズの効率化はシステム全体のコストパフォーマンスに直結します。

ハードウェア選定におけるリスクとエコシステムの課題

一方で、こうした特化型ハードウェアの採用にはリスクも伴います。最大の課題はソフトウェア・エコシステムです。現在はNVIDIAのCUDAエコシステムが圧倒的なシェアを持っており、多くのAIライブラリやツールはGPU前提で設計されています。

GSI Technologyなどの独自アーキテクチャを採用する場合、開発工数の増加や、エンジニアの確保が難しくなるリスク(ベンダーロックインのリスク)を考慮する必要があります。単にスペック上の処理速度が速いというだけで採用するのではなく、既存のAI開発パイプラインにスムーズに統合できるか、運用保守が可能かという観点での厳格な技術検証(PoC)が求められます。

日本企業のAI活用への示唆

今回のニュースは、AIインフラが成熟期に向かい、用途に応じたハードウェアの使い分けが始まっていることを示唆しています。以下に、日本の実務者が押さえておくべきポイントを整理します。

  • 「GPU一択」からの脱却検討:生成(Training/Inference)にはGPUが適していますが、検索(Search)や特定の推論タスクにおいては、APUやその他の特化型チップ(FPGAやASIC含む)がコスト対効果で優る場合があります。特に大規模なオンプレミス環境やエッジAIを検討する際は、視野を広げる必要があります。
  • RAGシステムのボトルネック特定:自社の生成AIサービスの応答が遅い場合、LLMの生成速度だけでなく「検索処理」に時間がかかっていないかを確認してください。検索部分の高速化が、結果として全体のUX向上につながります。
  • 省電力とサステナビリティ(GX):日本国内では電力コストの高騰や脱炭素(GX)への要請が強まっています。「インメモリ・コンピューティング」のような技術は、データ移動を減らすことで消費電力を削減できるため、グリーンITの観点からも評価軸の一つとなり得ます。

AI技術は日進月歩ですが、ソフトウェア(モデル)の進化だけでなく、それを支えるハードウェアの進化にも目を向けることで、より堅牢でコスト効率の高いAIシステムを構築することが可能になります。

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