米国のあるローカルテレビ局が、ChatGPTを活用して出演者のアニメ風アバターを作成・公開し話題となりました。一見すると単なるエンターテインメントの事例に見えますが、ここにはマルチモーダルAIの進化と、企業が直面する「クリエイティブの民主化」という重要なテーマが潜んでいます。本記事では、この事例を起点に、日本企業が画像生成AIをマーケティングや社内コミュニケーションに活用する際の可能性と、留意すべき法的・倫理的リスクについて解説します。
マルチモーダル化する生成AIとメディアの活用事例
米国のテレビ局WUSA9が、朝の番組スタッフをChatGPT(DALL-E 3連携機能と推測されます)を用いてアニメーション風のキャラクターに変換した動画を公開しました。これは、テキストだけでなく画像や音声も同時に扱える「マルチモーダルAI」の普及により、高度な技術を持たない非クリエイター部門でも、手軽にコンテンツ生成が可能になったことを象徴する事例です。
これまで、企業の公式キャラクターやスタッフの似顔絵を作成するには、プロのイラストレーターへの発注や、相応のコストと納期が必要でした。しかし、現在の生成AIは、簡単なプロンプト(指示文)と参照画像を入力するだけで、数秒で一定品質のアウトプットを提供します。メディア企業がこうした「遊び心」のあるコンテンツを迅速に制作・発信することは、視聴者とのエンゲージメントを高める手法として、今後さらに一般的になっていくでしょう。
日本企業における活用シーン:社内融和からマーケティングまで
この事例は、日本のビジネスシーンにおいても多くの示唆を含んでいます。特に以下の2つの領域での活用が現実的です。
第一に、社内コミュニケーションの活性化です。日本ではリモートワークの定着に伴い、社員間の「顔が見えにくい」という課題があります。社内チャットツール(SlackやTeamsなど)のアイコンや、社内報の紹介画像としてAI生成のアバターを利用することは、プライバシーを守りつつ親近感を醸成する「アイスブレイク」の手段として有効です。
第二に、SNSマーケティングにおける素材制作の効率化です。公式SNSの運用において「画像素材が足りない」という悩みは尽きません。日々の投稿に添えるイメージ画像や、キャンペーンのアイキャッチとして生成AIを活用することで、運用コストを大幅に削減しつつ、投稿頻度を維持することが可能になります。
看過できないリスク:著作権と肖像権の観点から
一方で、実務への導入にあたっては、日本特有の法規制や商習慣に配慮したガバナンスが不可欠です。
最も注意すべきは著作権と肖像権(パブリシティ権)です。特定の画風(有名なアニメや漫画家のスタイル)を意図的に模倣するプロンプトを使用した場合、依拠性が認められ著作権侵害のリスクが生じます。また、実在する社員をモデルにする場合であっても、本人の許諾なしにAIで画像を生成・公開することは、肖像権の侵害やハラスメントにつながる恐れがあります。
さらに、生成AIは「ハルシネーション(もっともらしい嘘)」の一種として、指の本数が不自然であったり、背景に不適切な文字が含まれたりすることがあります。日本企業は品質に対する基準が厳しいため、生成物をそのまま公開するのではなく、必ず人間の目によるチェックと修正(Human-in-the-loop)を挟むワークフローが必要です。
日本企業のAI活用への示唆
今回の事例を踏まえ、日本の経営層やプロダクト担当者は以下の点に留意してAI活用を進めるべきです。
- 「あそび」を許容するサンドボックスの設置:いきなり対外的なクリエイティブにAIを使うのではなく、まずは社内イベントや資料作成など、リスクの低い領域から活用を始め、従業員のAIリテラシーを向上させること。
- ガイドラインの策定と周知:「特定の作家風」の指示を禁止する、生成物の権利確認プロセスを設けるなど、著作権法や肖像権に配慮した具体的なガイドラインを整備すること。
- 従業員の合意形成:社員のアバター化などを行う際は、組織の強制ではなく、楽しみながら参加できる任意の取り組みとし、個人の尊厳を守る配慮を行うこと。
AIによる画像生成は、適切に管理されれば、日本企業の課題である「生産性向上」と「エンゲージメント強化」の両立に寄与する強力なツールとなります。技術の進化を恐れず、しかし法的な足場を固めながら、創造的な活用を模索していく姿勢が求められています。
