4 2月 2026, 水

「大規模言語モデル(LLM)」の次は「大規模行動モデル(LBM)」か?インド発の技術が示唆するAIの進化と日本企業への影響

インドのスタートアップが発表した「大規模行動モデル(LBM)」は、テキスト生成ではなく人間の行動特性や意思決定プロセスの分析に特化した新たな基盤モデルとして注目されています。生成AIブームが一巡し、汎用的なLLMから特定の課題解決に特化したモデルへと関心が広がる中、この技術が日本の人事・組織開発や顧客体験にどのような変革をもたらすか、実務的な観点から解説します。

「言葉」から「行動」へ:LLMとは異なるアプローチ

生成AIといえば、ChatGPTに代表される「大規模言語モデル(LLM)」が現在の主流ですが、世界のAI開発競争は次のフェーズへと移行しつつあります。インドのバンガロールに拠点を置くスタートアップAssessliが発表した「大規模行動モデル(Large Behavioural Model: LBM)」は、その象徴的な事例と言えるでしょう。

LLMがインターネット上の膨大なテキストデータを学習し、「次に来る単語」を予測して文章を生成するのに対し、LBMは人間の「行動データ、認知パターン、意思決定プロセス」を学習の主軸に据えていると考えられます。これは、単に流暢な文章を作るのではなく、アセスメント(評価)やシミュレーションを通じて、「この人物は特定の状況でどう振る舞うか」「どのような特性を持っているか」を分析・予測することに特化した基盤モデルです。

人事・組織開発領域におけるポテンシャル

この技術が最も親和性を発揮するのは、HR(Human Resources)領域です。日本国内でも、従来の「メンバーシップ型雇用」から、スキルや職務適性を重視する「ジョブ型雇用」への移行が進んでいますが、そこで課題となるのが「定性的な能力(ソフトスキル)」の評価です。

従来、適性検査や面接官の直感に頼っていた領域にLBMのような技術を適用することで、以下のような可能性が生まれます。

  • 採用のミスマッチ低減:履歴書のテキスト情報だけでなく、行動特性ベースでのカルチャーフィット予測。
  • リーダーシップ開発:シミュレーション環境での意思決定パターンをAIが分析し、個別のコーチングを提供。
  • ハイパフォーマー分析:組織内で成果を上げている人材の「行動の機微」をモデル化し、採用基準に反映。

日本企業が直面する「文化」と「データ」の壁

しかし、こうした「行動モデル」を日本企業がそのまま導入するには、いくつかのハードルがあります。

まず、学習データのバイアスと文化的背景です。インドや欧米で開発された行動モデルは、現地の商習慣やコミュニケーションスタイル(例えば、自己主張の強さをリーダーシップと捉えるなど)を正解として学習している可能性があります。ハイコンテクスト文化(文脈依存度が高い)である日本の組織において、そのまま適用すると誤った評価を下すリスクがあります。

次に、プライバシーとAIガバナンスの問題です。テキストデータ以上に、「個人の行動や性格」をAIが分析・プロファイリングすることに対しては、従業員や求職者からの心理的抵抗感が強くなります。日本の個人情報保護法や、欧州のGDPR(一般データ保護規則)、そして現在策定が進むAI規制においても、人事評価や採用といった「人の人生に重大な影響を与えるAI利用」はハイリスク領域とみなされる傾向にあります。

LLM一辺倒からの脱却と「特化型モデル」の重要性

今回のニュースから読み取るべき本質は、「何でもできる汎用LLM」だけでなく、「特定のデータ構造に特化した基盤モデル」が価値を持ち始めたというトレンドです。

例えば、製造業であれば「大規模センサーモデル」、金融であれば「大規模トランザクションモデル」といったように、自社のコアとなるデータに特化したモデルを構築、あるいは選定することが、今後の競争優位につながります。LLMをインターフェース(対話窓口)としつつ、裏側ではLBMのような特化型モデルが推論を行う「複合的なAIアーキテクチャ」が、今後のエンタープライズAIの標準形になっていくでしょう。

日本企業のAI活用への示唆

インド発のLBMの事例を踏まえ、日本の意思決定者や実務担当者は以下の点を意識してAI戦略を練るべきです。

  • 「LLM以外」への視野拡大:生成AI=ChatGPTという認識を捨て、自社の課題(行動予測、数値解析、画像検知など)に最適なモデルアーキテクチャを模索する時期に来ています。
  • 「暗黙知」のデータ化:LBMのようなモデルを活用するためには、評価データや行動ログなどの「良質な教師データ」が不可欠です。ベテラン社員の勘やコツ(暗黙知)をいかにデジタルデータとして蓄積できるかが勝負の分かれ目となります。
  • 透明性と説明責任の確保:行動分析AIを導入する場合、「なぜその評価になったのか」を説明できる(Explainable AI)状態を担保することが、日本の労働法制や組織文化においては必須条件です。ブラックボックスなAIによる人事評価は、組織の信頼を損なうリスクがあります。

技術の進化は早いため、海外のニッチな動向にもアンテナを張りつつ、あくまで「自社の現場で使えるか」「日本の商慣習に適合させられるか」という冷静な視点で技術を選定することが求められます。

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