3 2月 2026, 火

Amazon対Perplexityに見る「AIエージェント」と「データ保護」の新たな攻防戦

AmazonがAI検索エンジンPerplexityのクローラーによるアクセスを「AIによるロックピッキング(錠前破り)」と表現し、問題視しています。AIエージェントが自律的にWeb上の情報を取得しタスクを実行する時代において、企業は「データの防衛」と「AIの活用」の間でどのような法的・技術的判断を下すべきか、最新の事例をもとに解説します。

「AIロックピッキング」とは何か:Amazonの主張

米国での報道によると、AmazonはAI検索サービスを提供するPerplexityに対し、同社のAIエージェントがAmazonのサーバーへ不適切なアクセスを行っているとして懸念を表明しました。具体的には、Perplexityのクローラーが身元を隠し、一般的なWebブラウザ(Google Chromeなど)であるかのように振る舞うことで、Amazonが設定したロボット排除プロトコル(robots.txtなど)を回避しようとしたとされています。

この行為は「AIロックピッキング(AI Lockpicking)」と呼ばれ始めています。これは、従来のハッキングのような破壊行為ではなく、AIが人間のように自然な挙動や識別子を模倣することで、セキュリティシステムやアクセス制限を「合鍵を使わずに開錠する」かのようにすり抜ける手法を指します。

SEOからAIエージェントへのパラダイムシフト

かつて、Webサイト運営者にとってクローラー(検索エンジンのロボット)の受け入れは、検索順位を上げトラフィックを獲得するための必須条件でした。しかし、生成AIやLLM(大規模言語モデル)を搭載した「AIエージェント」の登場により、この関係性は崩れつつあります。

AIエージェントは、Webサイトから情報を抽出(スクレイピング)し、ユーザーに対して直接回答や購買支援を行います。これにより、ユーザーは元のWebサイトを訪れることなく目的を達成してしまいます。プラットフォーム側(Amazonなど)からすれば、サーバーリソースを消費されるだけで、サイトへの流入や広告収益、購買機会を奪われる「フリーライド(ただ乗り)」のリスクが高まっているのです。

日本企業における法的・技術的リスク

日本国内においても、自社データをAIに学習させることや、RAG(検索拡張生成)などの技術で外部データを参照させるニーズが急増しています。しかし、このAmazonの事例は、日本企業にとっても対岸の火事ではありません。

日本の著作権法(第30条の4)は、AIの「学習」目的でのデータ利用に対して世界的にも柔軟な姿勢をとっています。しかし、今回のような「特定のサービス提供のためにリアルタイムでデータを取得・利用する行為」は、純粋な学習とは異なり、情報解析の例外規定が適用されない可能性があります。また、Webサイトの利用規約(Terms of Service)でスクレイピングを禁止している場合、民法上の契約違反や、不法行為責任を問われるリスクも生じます。

日本企業のAI活用への示唆

今回の事例を踏まえ、日本企業の実務担当者は以下の3点を意識してAI戦略を構築すべきです。

1. 自社データの保護戦略(防衛)

自社が保有する独自データや商品情報が、他社のAIエージェントによって無断で利用されるリスクを再評価する必要があります。従来のrobots.txtによる拒否だけでなく、アクセス元の振る舞いを検知するWAF(Web Application Firewall)の導入や、利用規約における「AIによるデータ収集・利用」に関する条項の明記を検討してください。

2. AIエージェント開発時のコンプライアンス(攻撃・活用)

自社で情報を収集するAIツールを開発・利用する場合、対象サイトの規約遵守は必須です。「ブラウザを偽装して突破する」ような実装は、短期的には機能しても、法的リスクやブランド毀損のリスクが極めて高くなります。公式APIの利用契約を結ぶなど、正規のルートを確保することが、持続可能なサービス開発の前提となります。

3. 「検索」から「提携」へのシフト

今後、Web上の情報を勝手に集めてくるアプローチは限界を迎えます。AIサービスを提供する側とデータを持つ側が、正式なライセンス契約を結ぶ動き(例:OpenAIやGoogleと大手メディアの提携)が加速しています。日本企業においても、他社のデータを活用する際は「技術的に可能か」ではなく「法的に、そしてビジネスエコシステムとして持続可能か」という視点での意思決定が求められます。

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