米国の株式市場において、SalesforceやSentinelOneといった企業のインサイダー(内部関係者)による自社株購入の動きが注目されています。これは単なる投資判断を超え、2026年に向けたAI技術の「実用化フェーズ」がいよいよ本格化することを示唆しています。本稿では、チャットボットから「エージェント型AI」への進化と、それを支えるセキュリティの重要性について、日本企業が取るべき戦略の視点から解説します。
「生成」から「行動」へ:Agentic AI(エージェント型AI)の台頭
これまでの生成AIブームは、主にテキストや画像を「生成」することに焦点が当てられていました。しかし、SalesforceなどのエンタープライズIT巨人が現在注力しているのは、「Agentic AI(エージェント型AI)」と呼ばれる領域です。これは、人間が指示した内容に基づいて、AIが自律的に計画を立て、ツールを操作し、具体的な業務プロセスを実行する技術を指します。
従来の「Copilot(副操縦士)」型AIは、あくまで人間の支援ツールであり、最終的なアクションは人間がトリガーを引く必要がありました。対してエージェント型AIは、例えば「顧客からの問い合わせ内容を分析し、適切なサポートチケットを発行し、CRM(顧客関係管理)システムを更新して担当者に通知する」といった一連のワークフローを完結させることができます。内部関係者が強気な姿勢を見せている背景には、AIが単なる「お喋り相手」から「労働力」へとシフトし、企業のROI(投資対効果)に直結する段階に入ったという確信があると言えます。
AI時代のセキュリティ:防御の自動化と高度化
一方で、AIがシステム操作の権限を持つようになれば、セキュリティリスクも相応に高まります。SentinelOneのようなサイバーセキュリティ企業への注目が集まるのは、AIを活用した攻撃(AI-driven attacks)に対する防御策が不可欠になっているからです。
日本企業において特に懸念されるのは、AIによる情報漏洩や誤動作のリスクです。従来の境界型防御だけでなく、AIの振る舞い自体を監視し、異常を検知して即座に遮断するAIベースのセキュリティ(自律的防御)が求められます。攻撃側もAIを使ってくる以上、防御側も人間による対応だけでは速度負けしてしまいます。「AIを守るためのAI」の導入は、今後のITインフラにおける必須要件となるでしょう。
SaaSプラットフォームへの「AI組み込み」が加速する
企業が独自に大規模言語モデル(LLM)を開発・チューニングする動きは一部で続いていますが、大半の一般企業にとっては、既存のSaaSプラットフォームに組み込まれたAIを活用する方が現実的かつ効率的です。Salesforceのようなプラットフォーマーがエージェント機能を強化することで、ユーザー企業は複雑なMLOps(機械学習基盤の運用)を構築することなく、高度なAI機能を利用できるようになります。
ただし、これは「ベンダーロックイン」のリスクとも隣り合わせです。プラットフォームに依存しすぎると、データの可搬性やコストコントロールが難しくなる可能性があります。日本企業としては、コアとなるデータ資産は自社でしっかりとガバナンスを効かせつつ、アプリケーション層では優れたSaaSのAI機能を賢く使い倒すという、ハイブリッドな戦略が求められます。
日本企業のAI活用への示唆
米国市場の動向と技術トレンドを踏まえ、日本のビジネスリーダーやエンジニアは以下の3点を意識してAI戦略を構築すべきです。
1. 「PoC疲れ」からの脱却とエージェント化の検討
単なるチャットボットの導入で終わらせず、具体的な業務フローを自動化する「エージェント」の導入を視野に入れてください。日本の深刻な人手不足を補うには、AIに「作業」を任せることが不可欠です。どの業務プロセスならAIに権限移譲できるか、業務の棚卸しから始める必要があります。
2. データガバナンスの再定義
エージェント型AIが正しく機能するためには、その判断根拠となるデータが正確かつ整理されている必要があります。AI活用を見据えたデータの整備(クレンジング、権限管理の徹底)は、もはやIT部門だけの課題ではなく、経営課題として取り組むべきです。
3. 「Human-in-the-loop」の設計
AIが自律的に動くとはいえ、最終的な責任は人間が負います。特に日本の商習慣では、誤った対応がブランド毀損に直結しやすい傾向があります。完全に自動化する領域と、人間が必ず確認する(Human-in-the-loop)領域を明確に線引きし、リスクをコントロールしながら段階的に適用範囲を広げることが成功の鍵となります。
