1 2月 2026, 日

NVIDIA一強体制への挑戦状?ブロードコムとハイパースケーラーが主導する「カスタムチップ」の潮流と日本企業の選択

生成AIブームに伴いNVIDIAのGPUが市場を席巻する中、Googleなどの巨大IT企業(ハイパースケーラー)はブロードコムと組み、独自チップの開発を加速させています。「計算リソースの1秒が重要」という徹底した効率化の動きは、NVIDIAの支配を崩すほどではありませんが、確実に市場の選択肢を広げつつあります。このハードウェアレイヤーの変化が、日本のAI活用企業のコスト戦略やインフラ選定にどのような影響を与えるのか解説します。

「汎用」から「専用」へ:計算資源の最適化競争

現在、世界のAI開発現場では、NVIDIAのGPUが「ゴールドスタンダード」として君臨しています。汎用性が高く、CUDAという強力なソフトウェアエコシステムを持つNVIDIA製GPUは、モデルの学習(Training)において圧倒的な強さを誇ります。しかし、その一方で、GoogleやMeta、AWS、Microsoftといった巨大なクラウド事業者(ハイパースケーラー)は、水面下で「脱NVIDIA」とも取れる動きを加速させています。

その中心にあるのが、通信用半導体大手ブロードコム(Broadcom)との協業による「カスタムチップ(ASIC:特定用途向け集積回路)」の開発です。GoogleのGemini AIチームが「計算リソースの1秒1秒が極めて重要である(Every second of compute matters)」と語るように、莫大な規模でAIを運用する彼らにとって、汎用GPUは時として「オーバースペック」であり、電力効率やコストの面で最適ではない場合があります。

特定のAIモデルや推論処理に特化した専用チップを開発することで、処理速度を向上させつつ、消費電力とコストを劇的に抑える。この「専用化」の流れが、NVIDIAの支配に対する静かなる、しかし確実な対抗軸となりつつあります。

日本企業にとっての「カスタムチップ」の意味

日本の一般的な事業会社が、ブロードコムに直接カスタムチップを発注することは稀でしょう。しかし、このトレンドは「クラウド利用料」という形で、日本企業のAIプロジェクトに直結します。

これまでのAI開発、特に生成AIや大規模言語モデル(LLM)の活用においては、「GPUインスタンスを確保できるか」が最大のボトルネックでした。しかし、GoogleのTPU、AWSのTrainium/Inferentia、MicrosoftのMaiaといった、各社が独自開発(あるいはブロードコム等と共同開発)したチップを搭載したインスタンスが充実してきています。

これらはNVIDIA製GPUと比較して、特定のワークロード(特に推論やファインチューニング)において、大幅なコストパフォーマンスを発揮するケースが増えています。「とりあえずH100/A100を使う」という思考停止から脱却し、用途に応じてクラウドベンダー独自のチップを使い分けることが、コスト競争力を高める鍵となります。

「ロックイン」のリスクと「効率」のトレードオフ

一方で、カスタムチップの採用には慎重な検討も必要です。最大のリスクは「ベンダーロックイン」です。NVIDIAのGPUであれば、AWSで作ったモデルをAzureやオンプレミス環境に移行することは比較的容易です。しかし、特定のクラウド独自のチップに過度に最適化されたモデルやコードは、他環境への移植性を損なう可能性があります。

日本の組織文化として、長期的な安定性やポータビリティ(移植可能性)を重視する傾向がありますが、AIの進化速度はそれを待ってくれません。「開発・学習フェーズ」では汎用性の高いNVIDIA GPUを使い、「サービス提供(推論)フェーズ」ではコスト効率の良いクラウド独自チップに切り替えるといった、ハイブリッドな戦略が求められます。

日本企業のAI活用への示唆

今回のブロードコムとハイパースケーラーの動きから、日本のAI活用企業が学ぶべきポイントは以下の3点に集約されます。

1. インフラ選定の「脱・NVIDIA一択」思考

PoC(概念実証)段階では汎用GPUが安全ですが、実運用フェーズ、特に大規模なユーザーアクセスが見込まれるサービスでは、クラウドベンダー独自のカスタムチップ(ASIC)の利用を積極的に検討すべきです。これにより、推論コストを数割削減できる可能性があります。

2. ソフトウェアとハードウェアの「適合性」を見極める技術力

単にPythonコードが書けるだけでなく、「どのハードウェアで動かすのが最も経済合理的か」を判断できるインフラエンジニアやMLOps(機械学習基盤)担当者の価値が急上昇しています。組織として、こうしたハードウェアレイヤーの動向に明るい人材を育成・確保することが重要です。

3. 中長期的な「マルチクラウド・マルチハードウェア」戦略

特定のチップ供給不足や価格高騰のリスクをヘッジするため、単一のハードウェアに依存しないアーキテクチャを設計することが、事業継続性(BCP)の観点からも重要になります。コンテナ技術などを活用し、環境ごとの差異を吸収できる開発体制を整えることが、変化の激しいAI時代を生き抜く基盤となります。

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