Googleは、Webブラウザ「Chrome」に最新のGemini 3モデルを搭載し、AIが自律的にタスクをこなす「エージェント機能」の実装を発表しました。これまでの「検索・要約」にとどまらない、ユーザーに代わってWeb操作を行うAIの登場は、日本企業の業務自動化やUX設計に新たな問いを投げかけています。
「読むAI」から「動くAI」への転換点
Googleが発表したChromeへの「Gemini 3」統合は、生成AIのフェーズが明確に変わったことを示唆しています。これまで多くのビジネスパーソンが触れてきたAI機能は、Webページの要約、メールのドラフト作成、あるいはコードの生成といった「情報の処理・生成」が中心でした。
しかし、今回のGemini 3による「Agentic capabilities(エージェント機能)」は、AIがブラウザ上で「行動」することを意味します。例えば、航空券の比較サイトを見て最適な便を探すだけでなく、実際に予約フォームに入力し、決済画面の手前までナビゲートするといった一連のWeb操作をAIが代行する世界観です。
この「AIエージェント」の潮流は、単なる検索の進化ではありません。PC作業の大部分を占めるブラウザ操作そのものをAIに委譲する、新しいワークフローの幕開けと言えます。
日本企業の「SaaS過多」と業務効率化の親和性
日本国内のDX(デジタルトランスフォーメーション)の現場において、この機能は極めて高い親和性を持つと考えられます。多くの日本企業では、勤怠管理、経費精算、顧客管理(CRM)、チャットツールなど、多種多様なSaaS(Software as a Service)が導入されており、業務のほとんどが「Chromeなどのブラウザ上」で行われています。
これまで、これらの異なるSaaS間をつなぐ自動化にはRPA(Robotic Process Automation)が使われてきました。しかし、RPAは画面のレイアウト変更に弱く、事前のシナリオ設定に工数がかかるという課題がありました。
Gemini 3のような高度な推論能力を持つLLMがブラウザに統合されれば、人間のように「画面を見て、文脈を理解し、適切なボタンを押す」ことが可能になります。これは、従来のRPAでは自動化しきれなかった「判断を伴う定型業務」――例えば、複数のECサイトでの備品価格調査や、特定の条件に基づく競合調査、Webシステムへの複雑なデータ転力などの工数を劇的に削減するポテンシャルを秘めています。
セキュリティとガバナンスの新たな課題
一方で、ブラウザが「勝手に動く」ことに対するリスク管理は、企業のIT部門にとって頭の痛い問題となります。
第一に、機密情報の取り扱いです。AIエージェントがWebページの内容を読み取って処理する際、社内の機密データや顧客の個人情報が意図せずプロバイダー(この場合はGoogle)のサーバーに送信されたり、学習に利用されたりするリスクがないか、厳密な確認が必要です。日本企業は特に個人情報保護法や秘密保持契約(NDA)に敏感であるため、エンタープライズ版でのデータ保護規定が導入の鍵となるでしょう。
第二に、「誤動作」のリスクです。AIが文脈を誤読し、誤った商品を注文したり、社内SNSに不適切な投稿を行ったりする可能性はゼロではありません。AIエージェントにどこまでの権限(Read onlyなのか、Write/Executeまで許可するのか)を付与するかという、新しいアクセス制御の考え方が求められます。
日本企業のAI活用への示唆
Google ChromeへのAIエージェント統合を受け、日本のビジネスリーダーやエンジニアは以下の観点で準備を進めるべきです。
1. 「AIに操作される」前提のUI/UX設計
自社のWebサービスやECサイトが、AIエージェントにとって「読みやすく、操作しやすい」構造になっているかを見直す必要があります。人間だけでなく、AIエージェントが顧客として訪問してくる時代において、構造化データの整備やアクセシビリティの確保は、SEO(検索エンジン最適化)以上に直接的な売上に直結する可能性があります。
2. 「人間にしかできない判断」の再定義
ブラウザ上の操作系タスクがAIに代替されることを見越し、従業員にはAIが作成したドラフトや入力内容を「承認・監督」する能力が求められるようになります。業務マニュアルも「操作手順」から「AIの成果物のチェックポイント」へと書き換えが必要になるでしょう。
3. ブラウザ・ガバナンスの策定
情シス・セキュリティ部門は、ブラウザ拡張機能やAI機能の利用ポリシーを早急に策定する必要があります。一律禁止にするのではなく、「どの業務データならAIに入力してよいか」というデータ区分を明確にし、現場の生産性を損なわない形での統制が求められます。
