29 1月 2026, 木

Agentic AIの新たな潮流:「モデルの巨大化」から「システムとしてのスケーリング」へ

AIの性能向上において、これまで主流だった「モデルそのものを大きくする」アプローチに加え、「エージェントシステムの構成を最適化する」ことの重要性が科学的に示され始めています。Google Researchが発表したエージェントシステムに関する定量的研究をもとに、日本企業が押さえるべきAI開発の新たな指針と、実務への適用可能性について解説します。

AI性能向上の「第2の軸」:推論時の工夫

これまで、生成AIや大規模言語モデル(LLM)の性能向上といえば、パラメータ数を増やし、より多くのデータで学習させる「スケーリング則(Scaling Laws)」が中心的な議論でした。しかし、Google Researchが新たに発表した研究「Towards a science of scaling agent systems」は、別の視点からのブレイクスルーを示唆しています。

それは、モデルそのものの学習だけでなく、**「推論時(Inference-time)に、エージェントシステムとしてどれだけ計算資源と時間をかけるか」**によっても、AIの能力は予測可能かつ定量的に向上するという事実です。

これは、単にプロンプト(指示文)を工夫する段階を超え、AIに思考のステップを踏ませたり、複数のAIエージェントを連携させたりする「エージェンティック・ワークフロー」の設計が、モデルの賢さそのものと同じくらい重要であることを意味します。優秀な新人(モデル)を採用するだけでなく、彼らが能力を発揮できる業務フロー(エージェントシステム)を構築することで、成果が劇的に変わるのと同じ理屈です。

単一モデルから複合的なエージェントシステムへ

Googleの研究チームは、180種類以上のエージェント構成を厳密に評価しました。その結果、モデルに対して「即座に回答せよ」と求めるのではなく、以下のようなプロセスを経由させることで、より小さなモデルでも、より大きなモデルに匹敵、あるいは凌駕する成果を出せることが確認されています。

  • 自己反省(Self-Correction):AIが出力した答えを、AI自身に見直させて修正する。
  • ツールの活用(Tool Use):検索エンジンや計算機、社内データベースなどの外部ツールを適切に呼び出す。
  • マルチエージェント連携:「立案役」「批評役」「統合役」のように役割分担した複数のエージェントに議論させる。

この発見は、計算資源や予算に制約のある多くの日本企業にとって朗報です。GPT-4やGemini 1.5 Proのような最先端かつ高コストなモデルを常に使い続けなくとも、オープンソースのモデルや中規模モデルを適切なエージェント・アーキテクチャに組み込むことで、実用十分な精度を出せる可能性が高まるからです。

日本企業における活用とリスク管理

日本企業、特に製造業や金融業では、業務プロセスにおける「正確性」や「説明可能性」が極めて重視されます。エージェントシステムの考え方は、この日本の商習慣と親和性が高いと言えます。

例えば、稟議書の作成支援において、単に文章を生成させるだけでなく、「法務チェック担当エージェント」「予算確認担当エージェント」「リスク管理担当エージェント」をシステム内で擬似的に構築し、それらの承認プロセスを経て最終回答を出力するような設計が考えられます。これにより、いわゆるハルシネーション(もっともらしい嘘)のリスクを低減し、日本企業が好む「多角的なチェック(根回し的な確認)」をAI上で再現できます。

一方で、リスクも存在します。エージェントシステムは推論のステップが増える分、「レイテンシ(応答遅延)」と「コスト」が増加します。また、エージェントが自律的に判断してツールを使う場合、予期せぬ操作(誤ったメール送信やデータの削除など)を行うリスクもゼロではありません。

日本企業のAI活用への示唆

今回のGoogleの研究結果および昨今のAgentic AIのトレンドから、日本企業のリーダーやエンジニアは以下の点を意識すべきです。

1. 「モデル待ち」からの脱却
「次のGPT-5が出れば解決するだろう」と待つのではなく、現行モデルであっても、エージェントとしての動かし方(思考プロセスやツール利用の設計)を工夫することで、複雑なタスクを解決できる可能性を探ってください。

2. 業務プロセスの形式知化(Process Engineering)
エージェントシステムを機能させるには、人間が頭の中で行っている「判断手順」や「確認ポイント」を明確に言語化・構造化する必要があります。日本の現場が強みとする「カイゼン」や業務マニュアルの整備は、実は高性能なAIエージェントを作るための強力な資産となります。

3. ガバナンスとHuman-in-the-loopの徹底
エージェントが自律的に動く範囲を明確に制限することが不可欠です。特に日本国内では、AIの判断に対する法的責任や説明責任が問われやすいため、完全に自動化するのではなく、重要な意思決定の直前には必ず人間が介入する「Human-in-the-loop」の設計を前提に進めることが、実務適用への近道となります。

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