25 1月 2026, 日

医療情報の参照元はWebサイトよりYouTube?Google AI Overviewsの傾向から読み解くマルチモーダル時代の情報信頼性

Googleの検索AI「AI Overviews」が、医療健康に関するクエリに対してテキスト主体の医療サイトよりもYouTube動画を頻繁に引用しているという調査結果が話題となっています。この事実は、AIが情報を取得・生成するプロセスにおいて「動画コンテンツ」の重みが増していることを示唆しています。本稿では、このニュースを起点に、マルチモーダル化するAI検索の現状と、日本企業が意識すべきコンテンツ戦略およびガバナンス上の課題について解説します。

テキストから動画へ:AIの情報源におけるパラダイムシフト

英国The Guardian紙などが報じた調査によると、Googleの生成AI検索機能「AI Overviews」は、健康関連の検索クエリに対して、従来の権威ある医療機関のWebサイト(テキスト情報)以上に、YouTube上の動画コンテンツを情報源として引用する傾向があることが示唆されました。Google側はこの指摘に対し、「フォーマットに関わらず高品質なコンテンツを提示するように設計されている」と回答しています。

この事象は、大規模言語モデル(LLM)の学習および検索拡張生成(RAG)のプロセスにおいて、動画データの重要性が飛躍的に高まっていることを意味します。かつての検索エンジンはテキストのマッチングが主でしたが、現在のマルチモーダルAIは、動画内の音声(書き起こし)や映像情報を理解し、それを回答の根拠(グラウンディング)として利用できるようになっています。

「信頼性」と「分かりやすさ」のジレンマ

医療・ヘルスケア分野はいわゆるYMYL(Your Money or Your Life)と呼ばれる領域であり、情報の正確性が人命に関わるため、検索エンジン最適化(SEO)の世界でも特に厳格な信頼性が求められてきました。一般に、査読を経た医学論文や公的機関のテキスト情報は信頼性が高いとされますが、一般ユーザーにとっては難解であることが多々あります。

一方でYouTube上の動画は、専門家による解説であれインフルエンサーによる体験談であれ、視覚的・聴覚的に「分かりやすい」という特徴があります。AIが「ユーザーにとっての有用性」を最大化しようとする際、難解なテキストよりも、噛み砕かれた動画コンテンツを優先して引用してしまうリスクは技術的な課題として残ります。これは企業がAIを活用して顧客対応を行う際にも直面する問題です。「正確だが堅苦しいマニュアル」と「非公式だが分かりやすいユーザー投稿動画」、AIがどちらを回答のベースにするかは、慎重なチューニングとガバナンスが必要です。

日本企業のコンテンツ戦略への影響:脱・PDF依存

このトレンドは、日本企業の対外的な情報発信やマーケティング戦略にも大きな示唆を与えます。多くの日本企業、特にB2B企業や製造業では、製品仕様書や技術解説を詳細な「PDFファイル」として公開することが一般的です。しかし、PDF内の情報は構造化されておらず、AIにとっては必ずしも読み取りやすい形式ではありません。

AI OverviewsがYouTubeを好むという事実は、今後の「AI検索対策(AEO:Answer Engine Optimization)」において、動画コンテンツや、動画のように文脈が豊富なリッチコンテンツの重要性が増すことを示しています。テキスト情報だけでなく、動画による解説や、動画のスクリプト(台本)をテキストとして併記するなど、AIが解釈しやすいフォーマットで情報を資産化していく姿勢が求められます。

社内AI活用における「動画」の価値

視点を社内の業務効率化に移すと、この技術トレンドはポジティブな側面も持ちます。社内のナレッジは、ドキュメント化されていない会議の録画(ZoomやTeamsのアーカイブ)や、熟練技術者の作業風景動画などに眠っていることが多いからです。

AIが動画の中身を検索・要約できるようになれば、わざわざ議事録やマニュアルを書き起こさずとも、動画リポジトリをRAGの検索対象にするだけで、社内QAボットの精度を向上させられる可能性があります。ただし、ここでも「不正確な発言」が検索結果に紛れ込むリスクがあるため、情報の鮮度管理や参照元の明示といったガバナンスは不可欠です。

日本企業のAI活用への示唆

今回のGoogle AI Overviewsの事例から、日本企業の意思決定者や実務担当者は以下の点に留意してAI戦略を進めるべきです。

1. コンテンツ提供におけるマルチモーダル対応
自社の製品やサービスに関する情報を、テキスト(特にPDF)だけで提供するのではなく、動画や構造化データとして提供することを検討してください。これにより、将来的なAI検索からの流入や引用の可能性を高めることができます。

2. 生成AI出力の根拠確認(グラウンディング)の徹底
社内外で生成AIを利用する際、AIが提示した回答の参照元が「信頼できるソース(社内規定や公式文書)」なのか、「分かりやすいが非公式なソース(個人のブログや動画)」なのかをユーザーが識別できるUI/UXを設計する必要があります。特に医療や金融など規制の厳しい業界では必須の要件です。

3. 動画資産のナレッジ化(社内活用)
「文書化文化」が根強い日本企業ですが、すべてのナレッジをテキスト化するにはコストがかかります。マルチモーダルAIの進化を見据え、社内の動画データ(会議、研修、作業記録)をAIが検索・参照できる基盤を整備することは、中長期的な競争力につながります。

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