25 1月 2026, 日

米国規制当局の動向とAIガバナンス:暗号資産の事例から学ぶ、日本企業が取るべきリスク対応

米証券取引委員会(SEC)による暗号資産取引所Geminiへの訴訟取り下げは、新興技術に対する規制当局の姿勢の変化を示唆しています。本記事では、このニュースを起点に、同名のGoogle製AIモデル「Gemini」をはじめとする生成AI分野へ今後及ぶであろう規制の波と、日本企業がとるべきガバナンス戦略について解説します。

「Gemini」違いに見る、テクノロジー規制の潮目

今回取り上げるニュースは、Googleの生成AIモデル「Gemini」ではなく、ウィンクルボス兄弟が設立した暗号資産取引所「Gemini Trust Company」に関するSEC(米国証券取引委員会)の執行措置取り下げについて報じたものです。一見、AI開発とは無関係に見えますが、AI実務者としてこのニュースから読み取るべきは「米国の規制当局が新興テクノロジーに対してどのようなプロセスを経て妥協点を見出すか」というパターンです。

SECは投資家への全額返済を理由に訴訟を取り下げました。これは、新興技術(ここでは暗号資産)が引き起こすリスクに対し、事業者が適切な事後対応やコンプライアンス体制を示せば、当局は柔軟な姿勢を取り得ることを示唆しています。現在、生成AIを巡っても著作権侵害やハルシネーション(事実に基づかない情報の生成)といったリスクが議論されていますが、今後のAI規制においても「実質的な被害の回復」や「透明性の確保」が重要な争点になることが予想されます。

グローバルなAI規制の波と日本の立ち位置

現在、欧州では「EU AI法(EU AI Act)」が成立し、リスクベースのアプローチによる厳格な規制が始まっています。一方、米国では大統領令によるガードレールの設置が進むものの、イノベーションを阻害しないようバランスを取る動きも見られます。

対して日本は、現時点では法的拘束力のないガイドラインを中心とした「ソフトロー」のアプローチをとっており、世界的に見ても「AI開発・活用がしやすい国」と言われています。しかし、日本企業がグローバルにビジネスを展開する場合、あるいはGoogleやMicrosoft(OpenAI)といった米国ベンダーの基盤モデルを利用する場合、実質的には米欧の規制基準や商習慣の影響を強く受けることになります。「日本は規制が緩いから大丈夫」と高を括るのではなく、グローバルスタンダードを見据えたガバナンス体制を敷くことが、将来的な手戻りを防ぐ鍵となります。

実務における「攻め」と「守り」のバランス

企業が生成AIを導入する際、業務効率化や新規サービス開発といった「攻め」の側面に目が向きがちですが、同時に「守り」のAIガバナンスが不可欠です。

具体的には以下の3点が重要になります。

  • データの入力・利用範囲の明確化: 機密情報や個人情報をLLM(大規模言語モデル)に入力させないためのフィルタリングや、社内規定の策定。
  • 出力結果の検証プロセス(Human-in-the-loop): AIの回答をそのまま顧客に提示するのではなく、必ず人間が介在して内容をチェックするワークフローの構築。
  • 説明責任の確保: なぜそのAIモデルを採用したのか、どのようなデータで学習・ファインチューニング(追加学習)されたものか、ベンダーのリスク評価を追跡できる状態にしておくこと。

今回の暗号資産の事例のように、問題発生時の対応能力(レジリエンス)を高めておくことが、結果として当局や市場からの信頼獲得に繋がります。

日本企業のAI活用への示唆

以上の動向を踏まえ、日本の意思決定者やエンジニアが意識すべき要点は以下の通りです。

  • 名称や用語の混同に注意し、一次情報を確認する: 今回の「Gemini」のように、AI業界は用語の重複や情報の錯綜が激しい分野です。意思決定の前提となる情報が、技術的な文脈なのか金融的な文脈なのか、正確にソースを確認するリテラシーが求められます。
  • 「ソフトロー」の間に自主規制を確立する: 日本の法規制が厳格化するのを待つのではなく、経産省や総務省のガイドラインを参考に、自社独自の「AI利用憲章」やガイドラインを早期に策定すべきです。これにより、現場の社員が迷いなくAIツールを活用できる土壌が整います。
  • リスク対応をイノベーションの一部と捉える: コンプライアンス対応を「コスト」として嫌うのではなく、「安全に技術を使うための基盤」と捉え直してください。投資家保護を果たして信頼を回復したGemini(暗号資産取引所)の事例は、AIサービスにおいても「信頼性」が最大の競争優位になることを示唆しています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です